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リリアテレサの章
フードコート
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パーキングエリアに残っていたCLS患者を処置した私は、リリア・ツヴァイの食事のことを考えていた。
フードコートは充実しているけれど、人間の店員が調理していた店では当然店員がいないので対応してもらえず、完全自動化されたロボット店舗では、調理用のロボットには問題がなくても、用意された食材の賞味期限が過ぎてしまっているので、稼働していなかった。食材の管理が徹底しているだけに融通も利かない。<準備中>の表示が出たままで、呼び出しボタンを押しても、
「申し訳ございません。現在準備中です」
と、木で鼻を括ったようなメッセージが流れるだけだった。
でも、その中で唯一、長期保存が可能で賞味期限が切れていない食材を用いている店があった。ちゃんと生鮮食品の食材を用いて調理する形の店舗が殆どの中で、敢えて一部のニッチなニーズに応える為に用意された店舗。
その名も、<インスタントラーメン屋>。
ニ十世紀の後半辺りに地球で発明されたというそれは、四千年近い時間が経っても人間に愛され続けている不思議な食品だった。
決して高級でもなければ飛び抜けて栄養価が高い訳でもない、味も他にもっと美味しいものはいくらでもあるというのに、何故か人間はそれが食べたくなる時があるのだという。
ロボットの私には全く理解できない感覚だった。人間にはそういう時があるというのはデータとしては持たされているけれど、理解はできない。
もちろんこれは、私がそもそも<食事>というものをしないからというのもあるんだろうな。電気に味はないから。
ただ、制御が雑な充電施設に当たると非常にストレスを感じることはある。これは、人間が『不味い料理を食った』時に感じる不快さと似たようなものなのだろうか。
まあそれはさておいて、リリア・ツヴァイも、
「インスタントラーメンか。一度くらいは食べてみたいかな」
と言ったので、私に残っていた電子マネーで決済し、インスタントラーメンを注文した。現在の技術で製造されたそれの賞味期限は五十年。しかも、あくまで『食品だから』という理由で体裁として設定されたもので、保存状態さえ悪くなければ理論上は『食用に適さなくなる』ということがない。
だから店舗の中でロボットが動く音がして、約三分で受け渡し口にラーメンが入ったどんぶりが出てきた。
ちなみに、この種の店舗型のロボットの中には私達のような人型のロボットはいない。あくまで店舗そのものがロボットなんだ。
「わあ…!」
湯気を上げる熱々のラーメンを手にしてテーブルに着いたリリア・ツヴァイは、割り箸を手に取って麺を掬い、フーフーと息を吹きかけて冷まし、ズズッと音を立ててそれを啜った。ラーメンを食べる時はそのようにするのだというデータがあったからだ。
「美味しい! 私、これ好き!」
そう声を上げて笑顔になった彼女は、夢中になってインスタントラーメンを食べたのだった。
フードコートは充実しているけれど、人間の店員が調理していた店では当然店員がいないので対応してもらえず、完全自動化されたロボット店舗では、調理用のロボットには問題がなくても、用意された食材の賞味期限が過ぎてしまっているので、稼働していなかった。食材の管理が徹底しているだけに融通も利かない。<準備中>の表示が出たままで、呼び出しボタンを押しても、
「申し訳ございません。現在準備中です」
と、木で鼻を括ったようなメッセージが流れるだけだった。
でも、その中で唯一、長期保存が可能で賞味期限が切れていない食材を用いている店があった。ちゃんと生鮮食品の食材を用いて調理する形の店舗が殆どの中で、敢えて一部のニッチなニーズに応える為に用意された店舗。
その名も、<インスタントラーメン屋>。
ニ十世紀の後半辺りに地球で発明されたというそれは、四千年近い時間が経っても人間に愛され続けている不思議な食品だった。
決して高級でもなければ飛び抜けて栄養価が高い訳でもない、味も他にもっと美味しいものはいくらでもあるというのに、何故か人間はそれが食べたくなる時があるのだという。
ロボットの私には全く理解できない感覚だった。人間にはそういう時があるというのはデータとしては持たされているけれど、理解はできない。
もちろんこれは、私がそもそも<食事>というものをしないからというのもあるんだろうな。電気に味はないから。
ただ、制御が雑な充電施設に当たると非常にストレスを感じることはある。これは、人間が『不味い料理を食った』時に感じる不快さと似たようなものなのだろうか。
まあそれはさておいて、リリア・ツヴァイも、
「インスタントラーメンか。一度くらいは食べてみたいかな」
と言ったので、私に残っていた電子マネーで決済し、インスタントラーメンを注文した。現在の技術で製造されたそれの賞味期限は五十年。しかも、あくまで『食品だから』という理由で体裁として設定されたもので、保存状態さえ悪くなければ理論上は『食用に適さなくなる』ということがない。
だから店舗の中でロボットが動く音がして、約三分で受け渡し口にラーメンが入ったどんぶりが出てきた。
ちなみに、この種の店舗型のロボットの中には私達のような人型のロボットはいない。あくまで店舗そのものがロボットなんだ。
「わあ…!」
湯気を上げる熱々のラーメンを手にしてテーブルに着いたリリア・ツヴァイは、割り箸を手に取って麺を掬い、フーフーと息を吹きかけて冷まし、ズズッと音を立ててそれを啜った。ラーメンを食べる時はそのようにするのだというデータがあったからだ。
「美味しい! 私、これ好き!」
そう声を上げて笑顔になった彼女は、夢中になってインスタントラーメンを食べたのだった。
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