ロボ娘のち少女、ときどきゾンビ

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
29 / 115
リリアテレサの章

リンク

しおりを挟む
『あなたが連れているそれは何ですか?』

こちらに接近してきているアレクシオーネPJ9S2にそう問い掛けられて、私は正直に応えた。

「彼女は、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士の実験によって生み出された疑似生命体です。私を本体としてリンクしています」

ロボットを相手に嘘を吐いても仕方ないし、そもそも私達ロボットは嘘を吐くことができないように作られている。『何ですか?』と問い掛けられれば説明するしかない。

私がそう答えた時、視線の先で何かが動くのが見えた。木の枝を伝って移動してくるものがある。

道路脇の枝がザッと音を立てて揺れた瞬間、人影が宙を舞い、そして私達の前へと降り立った。

整った顔立ちに穏やかな笑みを湛え、すらりとした、背の高い、モデルのような体形をした女性の姿がそこにあった。

メイトギア、アレクシオーネPJ9S2だった。私の持つデータベースと比較すると若干のカスタマイズは行われているようだけど、ボディには多数の傷が見えるけれど、間違いなくアレクシオーネPJ9S2だった。

顔にかぶさった長い黒髪をかき上げる。本来の仕様だとプラチナブロンドの筈なのが黒髪になっているのは、元のオーナーの手によるものだろう。

彼女は言った。

「アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士? あまり芳しい評価ではないけれど、著名な科学者ね。なるほど理解しました」

続けて問い掛けてくる。

「アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士はあなたの主人ですか?」

その問い掛けにも私は正直に応える。

「アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士は死亡しました。私には現在、マスターがいない状態です。博士の実験体である彼女、リリア・ツヴァイと共にこの惑星を記録しているところです」

「…その、リリア・ツヴァイとリンクしているということは、彼女もロボットなの? 体は明らかに人間のようだけれど」

アレクシオーネPJ9S2は、私が答えたことで合点がいかなかった部分を改めて問い掛けてきた。

「はい。彼女の体は人間のものです。厳密には、CLS患者だったものを、博士が実験よって頭蓋内の器官を除去。代わりに人工脳を移植して、それを私とリンクさせています」

そう。私、リリアJS605sとリリア・ツヴァイは、別々の体を持ってはいるけれど、本体は私であり、彼女はいわば<子機>のようなものだった。

私達ロボットは、複数の機体をリンクし、任意の機体を本体とすることで、有機的に連動することができるのだ。

だけど私とリリア・ツヴァイとは、本来のそれとも既に違ってきているのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【改訂版】ピンク頭の彼女の言う事には、この世は乙女ゲームの中らしい。

歌川ピロシキ
ファンタジー
エステルは可愛い。 ストロベリーブロンドのふわふわした髪に零れ落ちそうに大きなハニーブラウンの瞳。 どこか舌足らずの口調も幼子のように天真爛漫な行動も、すべてが愛らしくてどんなことをしてでも守ってあげたいと思っていた。 ……彼女のあの言葉を聞くまでは。 あれ?僕はなんで彼女のことをあんなに可愛いって思ってたんだろう? -------------- イラストは四宮迅様(https://twitter.com/4nomiyajin) めちゃくちゃ可愛いヴォーレを描いて下さってありがとうございます<(_ _)> 実は四月にコニーも描いていただける予定((ヾ(≧∇≦)〃)) -------------- ※こちらは以前こちらで公開していた同名の作品の改稿版です。 改稿版と言いつつ、全く違う展開にしたのでほとんど別作品になってしまいました(;´д`) 有能なくせにどこか天然で残念なヴィゴーレ君の活躍をお楽しみいただけると幸いです<(_ _)>

適者生存 ~ゾンビ蔓延る世界で~

7 HIRO 7
ホラー
 ゾンビ病の蔓延により生きる屍が溢れ返った街で、必死に生き抜く主人公たち。同じ環境下にある者達と、時には対立し、時には手を取り合って生存への道を模索していく。極限状態の中、果たして主人公は この世界で生きるに相応しい〝適者〟となれるのだろうか――

ゾンビナイト

moon
大衆娯楽
念願叶ってテーマパークのダンサーになった僕。しかしそこは、有名になりたいだけの動画クリエイターからテーマパークに悪態をつくことで収益を得る映画オタク、はたまたダンサーにガチ恋するカメラ女子、それらを目の敵にするスタッフなどとんでもない人間たちの巣窟だった。 ハロウィンに行われる『ゾンビナイト』というイベントを取り巻く人達を描くどこにでもある普通のテーマパークのお話。

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

Catastrophe

アタラクシア
ホラー
ある日世界は終わった――。 「俺が桃を助けるんだ。桃が幸せな世界を作るんだ。その世界にゾンビはいない。その世界には化け物はいない。――その世界にお前はいない」 アーチェリー部に所属しているただの高校生の「如月 楓夜」は自分の彼女である「蒼木 桃」を見つけるために終末世界を奔走する。 陸上自衛隊の父を持つ「山ノ井 花音」は 親友の「坂見 彩」と共に謎の少女を追って終末世界を探索する。 ミリタリーマニアの「三谷 直久」は同じくミリタリーマニアの「齋藤 和真」と共にバイオハザードが起こるのを近くで目の当たりにすることになる。 家族関係が上手くいっていない「浅井 理沙」は攫われた弟を助けるために終末世界を生き抜くことになる。 4つの物語がクロスオーバーする時、全ての真実は語られる――。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...