25 / 115
リリアテレサの章
川と豚
しおりを挟む
日が落ちるまでにはまだ少し時間はあるけれど、今日はもうこのコンビニで夜を明かすことにした。この先にもコンビニがある筈だけれど、地図情報があまり当てにならないと確認できたので念の為だ。
せっかくだし、コンビニの裏の林に少し足を踏み入れてみる。そこには小さな川が流れていた。澄んだ水が流れていて、小さな魚の姿も見える。ここまで小さい魚だとあの病も関係なかった。ネズミよりも大きな脳を持つ動物なら、たとえ水生動物であってもあの病は発症する。もっとも、動きが遅くてかつよく動く生き物が豊富なところでないと食料が確保できないから、水生動物の<動く死体>はその殆どが割と早いうちに活動を停止したと思われてる。動きの速い生き物は捕らえられないし、動かない生き物は襲わないから。
さすがにこんな小さな川に住む生き物にはそんなに大きなのはいないから、関係はないと思うけど。
でも、川辺に住む動物には関係あったのか。
「野ブタ…?」
リリア・ツヴァイが川の向こうの木の陰から現れたものを見てそう呟いた。それは、地球にいる野生の豚に似た生き物だった。中型犬くらいの大きさで、のそのそと動いて私達の方に近付いてくる。でも、川に入った途端、流れに足を取られて成す術なく流されていった。動きが遅くて逆らえないのだ。
取り出した拳銃を構えたまま、私もそれを呆然と眺めてしまった。本当に知能と言えるものがないのがよく分かる光景だった。
あいつらには知能がない。学習能力がない。ドアを開けることも、階段を上ることさえできない。階段の段差につまずいて倒れてもそのまま立ち上がろうとするので何度でも段差でつまずいて倒れる。それを延々と繰り返す。階段を這って上るということすら思い付かない。生き物としてはどうしようもない<欠陥品>。
どうしてそんな意味不明な生き物を作り出すようなウイルス(のようなもの)が存在するのかは、今でも判明していない。博士もそれを研究していたけれど、はるか昔にこの惑星に存在した文明によって生み出された生物兵器の類と推測されただけでそれ以上は分からなかった。博士自身、そのウイルス(のようなもの)の出自にはさほど興味がなかったらしい。
「流されてったね……」
野ブタに似た動く死体の姿が完全に見えなくなるまで見送ったリリア・ツヴァイがまた呟いた。
「流されていったな……」
私も仕方なくそう応える。
まるでコントのようなその光景をどう捉えるべきか分からずに、私と彼女は植物の匂いが充満する林の中で、ただ佇んでいたのだった。
せっかくだし、コンビニの裏の林に少し足を踏み入れてみる。そこには小さな川が流れていた。澄んだ水が流れていて、小さな魚の姿も見える。ここまで小さい魚だとあの病も関係なかった。ネズミよりも大きな脳を持つ動物なら、たとえ水生動物であってもあの病は発症する。もっとも、動きが遅くてかつよく動く生き物が豊富なところでないと食料が確保できないから、水生動物の<動く死体>はその殆どが割と早いうちに活動を停止したと思われてる。動きの速い生き物は捕らえられないし、動かない生き物は襲わないから。
さすがにこんな小さな川に住む生き物にはそんなに大きなのはいないから、関係はないと思うけど。
でも、川辺に住む動物には関係あったのか。
「野ブタ…?」
リリア・ツヴァイが川の向こうの木の陰から現れたものを見てそう呟いた。それは、地球にいる野生の豚に似た生き物だった。中型犬くらいの大きさで、のそのそと動いて私達の方に近付いてくる。でも、川に入った途端、流れに足を取られて成す術なく流されていった。動きが遅くて逆らえないのだ。
取り出した拳銃を構えたまま、私もそれを呆然と眺めてしまった。本当に知能と言えるものがないのがよく分かる光景だった。
あいつらには知能がない。学習能力がない。ドアを開けることも、階段を上ることさえできない。階段の段差につまずいて倒れてもそのまま立ち上がろうとするので何度でも段差でつまずいて倒れる。それを延々と繰り返す。階段を這って上るということすら思い付かない。生き物としてはどうしようもない<欠陥品>。
どうしてそんな意味不明な生き物を作り出すようなウイルス(のようなもの)が存在するのかは、今でも判明していない。博士もそれを研究していたけれど、はるか昔にこの惑星に存在した文明によって生み出された生物兵器の類と推測されただけでそれ以上は分からなかった。博士自身、そのウイルス(のようなもの)の出自にはさほど興味がなかったらしい。
「流されてったね……」
野ブタに似た動く死体の姿が完全に見えなくなるまで見送ったリリア・ツヴァイがまた呟いた。
「流されていったな……」
私も仕方なくそう応える。
まるでコントのようなその光景をどう捉えるべきか分からずに、私と彼女は植物の匂いが充満する林の中で、ただ佇んでいたのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】
一色孝太郎
ファンタジー
魔族の薬師グランに育てられた聖女の力を持つ人族の少女ホリーは育ての祖父の遺志を継ぎ、苦しむ人々を救う薬師として生きていくことを決意する。懸命に生きる彼女の周囲には、彼女を慕う人が次々と集まってくる。兄のような幼馴染、イケメンな魔族の王子様、さらには異世界から召喚された勇者まで。やがて世界の運命をも左右する陰謀に巻き込まれた彼女は彼らと力を合わせ、世界を守るべく立ち向かうこととなる。果たして彼女の運命やいかに! そして彼女の周囲で繰り広げられる恋の大騒動の行方は……?
※本作は全 181 話、【完結保証】となります
※カバー画像の著作権は DESIGNALIKIE 様にあります

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる