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リリアテレサの章

ロボット

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私達メイトギアの本分は、人間の日常の生活のサポートだ。決して戦闘や愛玩対象が主目的じゃない。それ用のロボットは他に存在する。

ニッチなニーズに応える為に子供のような外見を与えられている私でもそれは変わらない。

だから私は、本来の機能を発揮して夕食を作った。

粒マスタードのソースを添えた野菜のテリーヌ。

生ハムをチップス状に刻んでまぶしたかぼちゃのポタージュ。

レモンソースを効かせた白身魚のムニエル。

全てその場にあったありあわせの材料で作ったものだけれど、このくらいは造作もない。

「わあ、美味しそう!」

リリア・ツヴァイが着いたテーブルにそれらを並べると、彼女はそう感嘆の声を上げた。それは実際には『人間はこういう時にこういう反応を見せる筈だ』というものに従っただけの姿の筈だけれど、でもそれだけじゃないのも感じていた。彼女の胸の中でやっぱり何かが踊るように奔り抜けたんだ。だから思わずそう言ってしまったというのもある。

人間の<心>とは、結局、そういう肉体的な反応と切っても切れないものなんだろうな。

きっと、そういう反応がまったくない状態で、『人間はこういう時にこういう反応を見せる筈だ』というものをいくら再現してみせてもそれは決して<心>ではないのだと思う。

そう、<そのように反応する肉体>がなければ、それはどこまでいってもただの<フリ>でしかないに違いないと私は思った。だから博士は、リリア・ツヴァイを作った筈なのだ。

でなければ子供を生ませる訳でもないのに人間の体など使う筈がない。

だけど、それももうどうでもいいことだった。その実験を思い付いた博士はもういない。

そんなことを考えると、彼女の胸が締め付けられるような傷むような感覚がある。ということは、これはやっぱり<心>なのだろうか。彼女は<心>を持っているということだろうか。

夕食の後、彼女は風呂に入った。食事の片付けをしながら私は思う。

たとえリリア・ツヴァイに<心>があったとしても、私の体が機械である以上はそれは決して生じない。私達メイトギアが開発されて三千数百年の間に何度も試みられては有意な結果を得られずに放棄されてきたものだ。

それは、心を持つ人間だからこその<感傷>でしかないと私は判断する。ロボットは人間じゃない。ロボットは決して人間にはなれない。

むしろ、ロボットはロボット、人間は人間と、それぞれ別の存在だから意味があるんだ。

と、専門家達は何度も何度も結論付けてきたという記録がある。

それでもなお人間達は、夢物語を捨てられないんだな。

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