15 / 115
リリアテレサの章
ロボット
しおりを挟む
私達メイトギアの本分は、人間の日常の生活のサポートだ。決して戦闘や愛玩対象が主目的じゃない。それ用のロボットは他に存在する。
ニッチなニーズに応える為に子供のような外見を与えられている私でもそれは変わらない。
だから私は、本来の機能を発揮して夕食を作った。
粒マスタードのソースを添えた野菜のテリーヌ。
生ハムをチップス状に刻んでまぶしたかぼちゃのポタージュ。
レモンソースを効かせた白身魚のムニエル。
全てその場にあったありあわせの材料で作ったものだけれど、このくらいは造作もない。
「わあ、美味しそう!」
リリア・ツヴァイが着いたテーブルにそれらを並べると、彼女はそう感嘆の声を上げた。それは実際には『人間はこういう時にこういう反応を見せる筈だ』というものに従っただけの姿の筈だけれど、でもそれだけじゃないのも感じていた。彼女の胸の中でやっぱり何かが踊るように奔り抜けたんだ。だから思わずそう言ってしまったというのもある。
人間の<心>とは、結局、そういう肉体的な反応と切っても切れないものなんだろうな。
きっと、そういう反応がまったくない状態で、『人間はこういう時にこういう反応を見せる筈だ』というものをいくら再現してみせてもそれは決して<心>ではないのだと思う。
そう、<そのように反応する肉体>がなければ、それはどこまでいってもただの<フリ>でしかないに違いないと私は思った。だから博士は、リリア・ツヴァイを作った筈なのだ。
でなければ子供を生ませる訳でもないのに人間の体など使う筈がない。
だけど、それももうどうでもいいことだった。その実験を思い付いた博士はもういない。
そんなことを考えると、彼女の胸が締め付けられるような傷むような感覚がある。ということは、これはやっぱり<心>なのだろうか。彼女は<心>を持っているということだろうか。
夕食の後、彼女は風呂に入った。食事の片付けをしながら私は思う。
たとえリリア・ツヴァイに<心>があったとしても、私の体が機械である以上はそれは決して生じない。私達メイトギアが開発されて三千数百年の間に何度も試みられては有意な結果を得られずに放棄されてきたものだ。
それは、心を持つ人間だからこその<感傷>でしかないと私は判断する。ロボットは人間じゃない。ロボットは決して人間にはなれない。
むしろ、ロボットはロボット、人間は人間と、それぞれ別の存在だから意味があるんだ。
と、専門家達は何度も何度も結論付けてきたという記録がある。
それでもなお人間達は、夢物語を捨てられないんだな。
ニッチなニーズに応える為に子供のような外見を与えられている私でもそれは変わらない。
だから私は、本来の機能を発揮して夕食を作った。
粒マスタードのソースを添えた野菜のテリーヌ。
生ハムをチップス状に刻んでまぶしたかぼちゃのポタージュ。
レモンソースを効かせた白身魚のムニエル。
全てその場にあったありあわせの材料で作ったものだけれど、このくらいは造作もない。
「わあ、美味しそう!」
リリア・ツヴァイが着いたテーブルにそれらを並べると、彼女はそう感嘆の声を上げた。それは実際には『人間はこういう時にこういう反応を見せる筈だ』というものに従っただけの姿の筈だけれど、でもそれだけじゃないのも感じていた。彼女の胸の中でやっぱり何かが踊るように奔り抜けたんだ。だから思わずそう言ってしまったというのもある。
人間の<心>とは、結局、そういう肉体的な反応と切っても切れないものなんだろうな。
きっと、そういう反応がまったくない状態で、『人間はこういう時にこういう反応を見せる筈だ』というものをいくら再現してみせてもそれは決して<心>ではないのだと思う。
そう、<そのように反応する肉体>がなければ、それはどこまでいってもただの<フリ>でしかないに違いないと私は思った。だから博士は、リリア・ツヴァイを作った筈なのだ。
でなければ子供を生ませる訳でもないのに人間の体など使う筈がない。
だけど、それももうどうでもいいことだった。その実験を思い付いた博士はもういない。
そんなことを考えると、彼女の胸が締め付けられるような傷むような感覚がある。ということは、これはやっぱり<心>なのだろうか。彼女は<心>を持っているということだろうか。
夕食の後、彼女は風呂に入った。食事の片付けをしながら私は思う。
たとえリリア・ツヴァイに<心>があったとしても、私の体が機械である以上はそれは決して生じない。私達メイトギアが開発されて三千数百年の間に何度も試みられては有意な結果を得られずに放棄されてきたものだ。
それは、心を持つ人間だからこその<感傷>でしかないと私は判断する。ロボットは人間じゃない。ロボットは決して人間にはなれない。
むしろ、ロボットはロボット、人間は人間と、それぞれ別の存在だから意味があるんだ。
と、専門家達は何度も何度も結論付けてきたという記録がある。
それでもなお人間達は、夢物語を捨てられないんだな。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜
みおな
ファンタジー
ティアラ・クリムゾンは伯爵家の令嬢であり、シンクレア王国の筆頭聖女である。
そして、王太子殿下の婚約者でもあった。
だが王太子は公爵令嬢と浮気をした挙句、ティアラのことを偽聖女と冤罪を突きつけ、婚約破棄を宣言する。
「聖女の地位も婚約者も全て差し上げます。ごきげんよう」
父親にも蔑ろにされていたティアラは、そのまま王宮から飛び出して家にも帰らず冒険者を目指すことにする。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
神水戦姫の妖精譚
小峰史乃
SF
切なる願いを胸に、神水を求め、彼らは戦姫による妖精譚を織りなす。
ある日、音山克樹に接触してきたのは、世界でも一個体しか存在しないとされる人工個性「エイナ」。彼女の誘いに応じ、克樹はある想いを胸に秘め、命の奇跡を起こすことができる水エリクサーを巡る戦い、エリキシルバトルへの参加を表明した。
克樹のことを「おにぃちゃん」と呼ぶ人工個性「リーリエ」と、彼女が操る二十センチのロボット「アリシア」とともに戦いに身を投じた彼を襲う敵。戦いの裏で暗躍する黒幕の影……。そして彼と彼の大切な存在だった人に関わる人々の助けを受け、克樹は自分の道を切り開いていく。
こちらの作品は小説家になろう、ハーメルン、カクヨムとのマルチ投稿となります。
異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~
樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。
無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。
そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。
そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。
色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。
※この作品はカクヨム様でも掲載しています。
帝国医学史奇譚~魔女と聖女の輪舞曲(ロンド)~
桜薔 蓮華
ファンタジー
治世と乱世の狭間で己(おの)が医道を貫く一人の女性がいた。
彼女とその仲間が描く医学の軌跡。
そこには人の世の光と影と闇があった。
恋に生きるは儚くて、金に生きるは虚しくて、出世に生きるは草臥れて、とかくこの世は生きづらい。
「望んで生んだガキを売る親なんかいねぇ」
「大嫌いだよ、こんな国。
でも、生まれたからには生きていかなきゃね。
泣いても一生、笑っても一生なら、笑って生きた方がいい。
大嫌いな奴に泣かされっぱなしなんて悔しいじゃないか」
「殺すより生かす方が難しいんだ、人は」
「心配するな。
白衣を着たアンタは皇太子より気高い。
前だけ見て歩け」
「戦に必要なのは大義だ、正義じゃない。
大義ってのは国を動かす名分、それが正義とは限らないし、限る意味も理由もないだろ?」
「戦に正義も何もない。
正義と正義が打つかり合うのが戦だ。
こちらにこちらの正義があるように、あちらにもあちらの正義がある」
「敗者は弱者だ。
そして、弱者には権利も選択肢もない。
戦場とはそういう場所だ。
軍医はこれを呑み込んで一人前、呑み込めないアンタに軍医は無理だ」
「どんな形であれ、皆さんは我が国の勝利に貢献したのです。
それを嘲笑するなんて理不尽ですわ。
理不尽を許す必要はございません」
「なら、これだけは覚えとけ。
この世には絶対の悪も絶対の正義もねぇ。
そんな都合のいいモンは存在しねぇんだ」
表紙はこちら。
https://estar.jp/users/2495396
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる