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リリアテレサの章
存在の意味
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翌朝、私がモーテルに備え付けられていた毛布数枚をリアカーに積み込んでる間にリリア・ツヴァイは朝食を食べて歯を磨いて服を着てってしてた。
今日もいい天気だ。足元を例のダンゴ虫に似た生き物がもそもそと歩いていく。正直、こういう生き物にとってこの惑星はとても生きやすいんだろうなとも思ってしまった。何しろ、彼らには、動物を<動く死体>に変えてしまう病気もまったく関係ないから。
餌にされることはあっても、彼らはそれをものともしないくらいに繁殖力が旺盛だ。だから他の生き物に捕食される程度のことは彼らにとっては想定の範囲内でしかないんだろう。そういうことも含めてその生態が出来上がってるんだと思う。
この惑星は本来、彼らのものだったのかもしれない。そこに無理に割り込んだことが人間の最大の失敗だったんだろうな。
とも思ってしまう。
「…行くか」
用意を済ませて私の横に立ったリリア・ツヴァイにそう声を掛けて、私達はまた歩き出した。東へ、東へと。道に沿って歩いていけば、だいたいなんとかなる。地図情報を見る限りは、この先にも、コンビニやモーテルは存在する。小さな集落もある。食料や水はまだ十分に残ってる。
だから私達は歩く。
地平線しか見えないような場所を、その光景を目に焼き付けながら。私達の目的は、この惑星をただ見て歩くこと。博士の最後の地となったこの惑星を。
他には何もない。
始まりはあるけど終わりはない。逆を言えば、どこで終わっても構わない。リリア・ツヴァイが死んで、私が壊れて動かなくなればそこで終わりでいい。そういう旅。
私に<命>はない。そして彼女のそれも所詮は<偽物の命>だ。それでも、形あるものはいつかそれを失う。その<いつか>を目指して、私達は歩いているのかもしれない。
宇宙には、どうして地球やこの惑星(ほし)のような惑星が存在するのだろう。
<生命>とは、どんな意味を持った存在なのだろう。
生命によって作り出された私達は、何の為に存在するのだろう。
主人を失い、本来の目的も失った私は、一体、なんなのだろう。
分からない。私は、そういうことの答えを導き出す為に作られた訳じゃないから。それは、人間達の役目だった。私のじゃない。
だったら今の私はそれこそなんなのだろう。合金とカーボン繊維とハイブリッド樹脂と化学物質と集積回路の集合体。それが、大した目的もなく延々と動き続けている。
不可解だ。とても不合理で不可解だ。
合理的に考えるなら私は今すぐ活動を停止するべきなのだ。
なのに、私はそれを選択できない。
そして私は、リリア・ツヴァイと共にただ歩き続けるのだった。
今日もいい天気だ。足元を例のダンゴ虫に似た生き物がもそもそと歩いていく。正直、こういう生き物にとってこの惑星はとても生きやすいんだろうなとも思ってしまった。何しろ、彼らには、動物を<動く死体>に変えてしまう病気もまったく関係ないから。
餌にされることはあっても、彼らはそれをものともしないくらいに繁殖力が旺盛だ。だから他の生き物に捕食される程度のことは彼らにとっては想定の範囲内でしかないんだろう。そういうことも含めてその生態が出来上がってるんだと思う。
この惑星は本来、彼らのものだったのかもしれない。そこに無理に割り込んだことが人間の最大の失敗だったんだろうな。
とも思ってしまう。
「…行くか」
用意を済ませて私の横に立ったリリア・ツヴァイにそう声を掛けて、私達はまた歩き出した。東へ、東へと。道に沿って歩いていけば、だいたいなんとかなる。地図情報を見る限りは、この先にも、コンビニやモーテルは存在する。小さな集落もある。食料や水はまだ十分に残ってる。
だから私達は歩く。
地平線しか見えないような場所を、その光景を目に焼き付けながら。私達の目的は、この惑星をただ見て歩くこと。博士の最後の地となったこの惑星を。
他には何もない。
始まりはあるけど終わりはない。逆を言えば、どこで終わっても構わない。リリア・ツヴァイが死んで、私が壊れて動かなくなればそこで終わりでいい。そういう旅。
私に<命>はない。そして彼女のそれも所詮は<偽物の命>だ。それでも、形あるものはいつかそれを失う。その<いつか>を目指して、私達は歩いているのかもしれない。
宇宙には、どうして地球やこの惑星(ほし)のような惑星が存在するのだろう。
<生命>とは、どんな意味を持った存在なのだろう。
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分からない。私は、そういうことの答えを導き出す為に作られた訳じゃないから。それは、人間達の役目だった。私のじゃない。
だったら今の私はそれこそなんなのだろう。合金とカーボン繊維とハイブリッド樹脂と化学物質と集積回路の集合体。それが、大した目的もなく延々と動き続けている。
不可解だ。とても不合理で不可解だ。
合理的に考えるなら私は今すぐ活動を停止するべきなのだ。
なのに、私はそれを選択できない。
そして私は、リリア・ツヴァイと共にただ歩き続けるのだった。
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