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魔王ドレーア
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<スワンプマン>という単語が出てきた上に、
『一度死んだ者がそのままの姿で戻ってきてもそれは同じ者と言えるのか?』
とかいう考え方があるってんなら、まあ間違いないだろうな。その考え方をこの世界に持ち込んで、一国にとはいえ広めたのは、まず間違いなく<転生者>か<転移者>だろう。まったく。<再生者>や<死ねない者>みたいなのが存在する世界で<自己の同一性>なんか気にしててどうすんだ? そういうのは、
『死んだ人間は生き返ったりしない』
っていう大前提がある世界でこそ論じる意味がある話だろうが。本来なら生き返るはずのないものが生き返った時に気にするものだ。
余計な理屈を持ち込みやがって……
正直そう思うが、<たられば>を言ってても始まらん。
「まあそういうことなら、俺も明かしておこうか。俺は<死ねない者>ってだけじゃなくて、<前世の記憶>ってのがあるんだ。だから今はこうして小僧っ子だが、中身は五十のオッサンだよ。ただ、スワンプマンの話を気にするなら、そもそも<前世とは別の人間>に生まれ変わった俺はなんだ? 前世の記憶がいくらあったって前世とは<別の人間>だよな? それなのに『俺という人間を自認してるのは俺』なんだ。他人からどう見えようが知ったことじゃない。俺は俺だ。俺以外の誰でもない。死ぬ前と生き返った後で同じ人間と言えるかどうかも関係ない。俺が俺を<俺>として認識してるなら俺だ」
きっぱりと言い切った俺に、
「君は……強いな……私は正直、自分が本当に自分なのか自信を持てなかった。だから、王や第二王子らに言われたとおりに国を去ってしまった。確かに君の言うとおり、私は私だ。以前の私じゃないと誰に言われても私以外の誰でもないと今なら思える。なのに私は、逃げてしまったんだ……そういう意味では、<王の器>ではなかったんだろうと思う」
アガルラは苦笑いを浮かべながら言う。するとアガルトライツが、
「そんな…! 兄上は立派な方です! 兄上のような方こそが王に相応しいと僕は思ってます……!」
感情をあらわに言うが、それはこの際どうでもいい。
だから俺はさらに言ったんだ。
「お前さんが王の器かどうかも、俺には関係ない。はっきり言わせてもらえば、もし、俺が何人もの<俺>と称する奴に分かれてたって、それぞれが<俺>なんだと思ってる。『本当は一人のはず』なんてのもどうでもいい。複数の俺がいるならそれら一つ一つが俺自身だ。分かれたことでそれぞれ別の生き方をしていくだろうし、<別の俺>だよ」
『一度死んだ者がそのままの姿で戻ってきてもそれは同じ者と言えるのか?』
とかいう考え方があるってんなら、まあ間違いないだろうな。その考え方をこの世界に持ち込んで、一国にとはいえ広めたのは、まず間違いなく<転生者>か<転移者>だろう。まったく。<再生者>や<死ねない者>みたいなのが存在する世界で<自己の同一性>なんか気にしててどうすんだ? そういうのは、
『死んだ人間は生き返ったりしない』
っていう大前提がある世界でこそ論じる意味がある話だろうが。本来なら生き返るはずのないものが生き返った時に気にするものだ。
余計な理屈を持ち込みやがって……
正直そう思うが、<たられば>を言ってても始まらん。
「まあそういうことなら、俺も明かしておこうか。俺は<死ねない者>ってだけじゃなくて、<前世の記憶>ってのがあるんだ。だから今はこうして小僧っ子だが、中身は五十のオッサンだよ。ただ、スワンプマンの話を気にするなら、そもそも<前世とは別の人間>に生まれ変わった俺はなんだ? 前世の記憶がいくらあったって前世とは<別の人間>だよな? それなのに『俺という人間を自認してるのは俺』なんだ。他人からどう見えようが知ったことじゃない。俺は俺だ。俺以外の誰でもない。死ぬ前と生き返った後で同じ人間と言えるかどうかも関係ない。俺が俺を<俺>として認識してるなら俺だ」
きっぱりと言い切った俺に、
「君は……強いな……私は正直、自分が本当に自分なのか自信を持てなかった。だから、王や第二王子らに言われたとおりに国を去ってしまった。確かに君の言うとおり、私は私だ。以前の私じゃないと誰に言われても私以外の誰でもないと今なら思える。なのに私は、逃げてしまったんだ……そういう意味では、<王の器>ではなかったんだろうと思う」
アガルラは苦笑いを浮かべながら言う。するとアガルトライツが、
「そんな…! 兄上は立派な方です! 兄上のような方こそが王に相応しいと僕は思ってます……!」
感情をあらわに言うが、それはこの際どうでもいい。
だから俺はさらに言ったんだ。
「お前さんが王の器かどうかも、俺には関係ない。はっきり言わせてもらえば、もし、俺が何人もの<俺>と称する奴に分かれてたって、それぞれが<俺>なんだと思ってる。『本当は一人のはず』なんてのもどうでもいい。複数の俺がいるならそれら一つ一つが俺自身だ。分かれたことでそれぞれ別の生き方をしていくだろうし、<別の俺>だよ」
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