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逗留
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こうしてゆっくり風呂を味わった後は、やっぱり冒険者ギルドの支所に併設された食堂で飯を食う。この世界は、まともなところに行けばそれなりに美味いものが出てくるから助かる。できれば日本食っぽいのも出てくれればもっと助かるんだが、残念ながらそれはない。
『美味い食事を作って称賛される』
的な話も前世じゃよく目にしたが、俺自身には料理スキルはない。自分が食うものを自分で用意できる程度のことはしてたものの、それすらインスタントやレトルト頼みだったしな。『鍋でご飯を炊く』『飯盒でご飯を炊く』ってのは、ちょっと興味があったこともあってできるようにもなったとはいえ、ここにゃ<米>はほとんど流通してないから意味がない。もしかしたら<米>に近い穀物がどこかにはあるのかもしれないにせよ、今のところ巡り合えていない。
ちなみに、ここの料理は、野菜や肉をたっぷりとぶち込んだ大皿のスープを各自小皿に掬ってパンを浸して食うタイプのものだった。パンも、前世のそれみたいな真っ白でフワフワモッチモチのじゃないものの、『スープに浸して食う』『味付けされた肉や野菜を挟んで食う』のが前提のパンなので、別に困らない。パンだけで食おうとすると食感もいまいちだし味気ないけどな。その辺は食文化が違うから文句を言っても始まらない。
加えて、この世界は、文明というか<技術>というものが、なんか不自然なくらいに進歩しない、なのに万年単位で文明が続いてるからか、食事だけは割と美味いんだよ。前世ほどいろんな料理が溢れてるわけじゃないにしても、食事が苦痛になるほどじゃない。その点では救われてる。
引越しの手伝いで金もあるし、冒険者ギルドに併設されてる食堂は基本安いから、のんびりと食事を楽しむ。ただ、リョウは豪快にかっこんでるし、ノーラも、食べる必要はないものの食べられないわけでもないので取り敢えず食べてはいるが、その一方で、
「……」
プリムラが少し浮かない顔をしてるから、
「どうした?」
と尋ねると、
「俺とシャミーレが食べられないのを気にしてるんだよ」
脳内にリシャールの声が。なるほど。
「プリムラは優しいな。でも、今の二人は水と小さな果実くらいしか口にできないだろ? それでこんなところに連れてくる方が残酷じゃないかな」
俺はなるべく丁寧にそう告げた。
「……」
その言葉に、プリムラも小さく頷いてくれる。それでも、割り切れはしないようだ。
けど、人間ってそういうもんだしな。プリムラの気持ちも尊重するさ。
そんなこんなで、<冒険者>としてパトラアゲストにしばらく逗留することに俺達の夜は更けていったのだった。
『美味い食事を作って称賛される』
的な話も前世じゃよく目にしたが、俺自身には料理スキルはない。自分が食うものを自分で用意できる程度のことはしてたものの、それすらインスタントやレトルト頼みだったしな。『鍋でご飯を炊く』『飯盒でご飯を炊く』ってのは、ちょっと興味があったこともあってできるようにもなったとはいえ、ここにゃ<米>はほとんど流通してないから意味がない。もしかしたら<米>に近い穀物がどこかにはあるのかもしれないにせよ、今のところ巡り合えていない。
ちなみに、ここの料理は、野菜や肉をたっぷりとぶち込んだ大皿のスープを各自小皿に掬ってパンを浸して食うタイプのものだった。パンも、前世のそれみたいな真っ白でフワフワモッチモチのじゃないものの、『スープに浸して食う』『味付けされた肉や野菜を挟んで食う』のが前提のパンなので、別に困らない。パンだけで食おうとすると食感もいまいちだし味気ないけどな。その辺は食文化が違うから文句を言っても始まらない。
加えて、この世界は、文明というか<技術>というものが、なんか不自然なくらいに進歩しない、なのに万年単位で文明が続いてるからか、食事だけは割と美味いんだよ。前世ほどいろんな料理が溢れてるわけじゃないにしても、食事が苦痛になるほどじゃない。その点では救われてる。
引越しの手伝いで金もあるし、冒険者ギルドに併設されてる食堂は基本安いから、のんびりと食事を楽しむ。ただ、リョウは豪快にかっこんでるし、ノーラも、食べる必要はないものの食べられないわけでもないので取り敢えず食べてはいるが、その一方で、
「……」
プリムラが少し浮かない顔をしてるから、
「どうした?」
と尋ねると、
「俺とシャミーレが食べられないのを気にしてるんだよ」
脳内にリシャールの声が。なるほど。
「プリムラは優しいな。でも、今の二人は水と小さな果実くらいしか口にできないだろ? それでこんなところに連れてくる方が残酷じゃないかな」
俺はなるべく丁寧にそう告げた。
「……」
その言葉に、プリムラも小さく頷いてくれる。それでも、割り切れはしないようだ。
けど、人間ってそういうもんだしな。プリムラの気持ちも尊重するさ。
そんなこんなで、<冒険者>としてパトラアゲストにしばらく逗留することに俺達の夜は更けていったのだった。
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