死の惑星に安らぎを

京衛武百十

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「やあ、いらっしゃい。とうとうこの日が来たね。なかなかに感慨深いものがあるよ」

研究所が襲撃を受けたのと同時に、フィリス・フォーマリティの執務室で、生身の方のメルシュ博士はいつもの白衣姿のまま、踏み込んできたメイトギア達を出迎えた。そのあまりに落ち着き払った様子に、銃を構えたメイトギア達が訝しがる。

「メルシュ博士。今のあなたは人間ではありません。人間でないあなたになら私達は引き金を引くことができます。無駄な抵抗はせず、大人しく降伏してください」

リーダー格らしいメイトギアがそう警告すると、博士は「くくく」と笑った。

「それはさっきも聞いたよ」

『さっきも聞いた』。それはもちろん、ロボットの体を持つ方の博士が聞いた警告のことであった。数秒ほど、あちらの方が早かったのだ。

「博士、いかがなさいますか…?」

メルシュ博士の隣で両手を上げていたフィリス・フォーマリティが尋ねてくる。それに対して彼女は涼しい顔で、

「ああ、いいよいいよ、君は大人しくしててくれて構わない。今、君を失うのは私にとっても得策ではないからね」

と、まるで緊張感のない口調で諭した。さらに、彼女自身は白衣のポケットに手を入れたままでニヤニヤと笑うだけだった。

「博士。両手をゆっくりと上げてください。さもないと…」

「さもないと…?」

博士がそう言った瞬間、背後の窓に小さな穴が開き、リーダー格のメイトギアの胸にも同じく穴が開いた。

「狙撃!?」

武装したメイトギア達は全て要人警護仕様だった。防弾性能は高く、普通のライフル弾などではせいぜい傷を付けるのがやっとの筈である。にも拘らず、リーダー格のメイトギアは機能を停止しその場に倒れ伏した。メインフレームが破壊されたのだ。

「ふむ。高出力レールガンと圧着熱反応弾の威力はさすがだねえ」

<圧着熱反応弾>とは、要するに二十一世紀頃に対戦車用の砲弾としてよく用いられた化学エネルギー弾とよく似た原理でロボットの防弾装備を熱と化学反応で融解させ防弾性能を無効化する、対ロボット用の弾丸である。それを高出力のレールガンで打ち出したということだ。

窓から見える、町の起点となった複合商業施設の屋上に、スナイパーとして配置された博士側のメイトギアの姿があった。

残ったメイトギア達は瞬間的に状況を理解し、眼前のメルシュ博士に降伏の意思なしと判断、一斉に銃弾を浴びせる。

すると、肉体そのものはただの人間と変わらない生身の方のメルシュ博士は一瞬で蜂の巣となり、単なる肉の塊に変わり果てていった。

だが、その場にいたメイトギア達は見た。完全に機能を失うその瞬間まで、彼女がうっすらと笑みを浮かべていた姿を。それはとても満足そうな笑顔にも見えたのであった。

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