死の惑星に安らぎを

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
108 / 120

ゴードン・メルクリウス

しおりを挟む
「博士。あのサーシャとかいう人間、どうなさるおつもりですか?」

タリアP55SIとフィーナQ3-Ver.1911がそれぞれある種の決意を固めている頃、いつもの如く血まみれでCLS患者の解剖を行っていた全裸のロボットの体を持った方のメルシュ博士に、助手を務めていたリリアテレサが訪ねていた。

「ん? 別にどうもしない。これまで通りだよ。せいぜい実験の役に立ってもらうさ」

DNAと精子の採取を済ませた、十二歳くらいの少年のCLS患者の体をバラバラに刻み、それを念入りに調べながら博士は片手間でリリアテレサに応える。だがその口元には、邪悪とも思える笑みが張り付いていた。

その一方で、イニティウムタウン内の官邸として利用されている住宅の部屋では、フィリス・フォーマリティと白衣を纏った生身の方の博士が紅茶を飲みながら町の状況について話し合っている姿があった。

イニティウムタウンの建設が始まってから約二年。周囲に張り巡らされた壁と柵により安全は確保され、子供達に教育を施す為に作られた<スクール>も順調で、それぞれの家庭では家内制手工業的に様々な物品の生産が始まり、町の外には畑が広がり、専用の設備が必要な工業製品を生産する為の工場も稼働し始めた。メイトギアを除いた人口は三百人に届こうとしている。

サーシャももうすぐ十三歳になろうとしていた。サーシャと同世代の子供として生み出されたクローン達も共にスクールに通い、自らの目と耳と皮膚で知識を得、他者と交流することで自我を確立させて健やかに成長し、次世代を担う存在として確かな力を身に付けていった。メイトギア人間やCLS患者を母体として生まれた赤ん坊達も、よちよち歩きを始めてまさに可愛い盛りだった。しかも、その後も引き続き次々と赤ん坊は生まれている。

クローンと、人工授精による赤ん坊たちは、メイトギア人間とは違い肉体的には普通の人間である。となれば当然、サーシャと同じ年頃の子供として生み出されたクローン達には思春期ならではの肉体の変化も現れ、ホルモンが心理にも影響を与える。純粋な人間であるサーシャももちろん大人の女性への変化を見せ始め、同学年の少年達の中には彼女に恋心を抱く者も現れ始めた。

その中の一人、ゴードン・メルクリウスは、恐らく特に強い気持ちを抱いていただろう。なお、余談ではあるが、ゴードン・メルクリウスという名前は、メルシュ博士が思い付きでつけただけのものなので特に意味はない。

そんなゴードンは、体は大きいが気持ちの優しい穏やかな気性の少年だった。

「サーシャ、一緒に帰ろうか」

授業が終わり、女子生徒達に囲まれておしゃべりを楽しんでいた彼女に、彼はそう声を掛けたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

メルシュ博士のマッドな情熱

京衛武百十
SF
偽生症(Counterfeit Life Syndrome)=CLSと名付けられた未知の病により死の星と化した惑星リヴィアターネに、一人の科学者が現れた。一切の防護措置も施さず生身で現れたその科学者はたちまちCLSに感染、死亡した。しかしそれは、その科学者自身による実験の一環だったのである。 こうして、自らを機械の体に移し替えた狂気の科学者、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士のマッドな情熱に溢れた異様な研究の日々が始まったのであった。     筆者より。 「死の惑星に安らぎを」に登場するマッドサイエンティスト、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士サイドの物語です。倫理観などどこ吹く風という実験が行われます。ご注意ください。

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

Gender Transform Cream

廣瀬純一
SF
性転換するクリームを塗って性転換する話

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

処理中です...