死の惑星に安らぎを

京衛武百十

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プリムラEL808

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タリアP55SIは、アンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808に対しては特別な感慨を抱くことはなかった。アンナやサーシャに触れてこのリヴィアターネに生きる人間の存在を実感している彼女にとってこの二体のしていることは、やはり人間の真似事をしている哀れなロボットの<ごっこ遊び>にしか見えなかった。

だが、だからと言ってそれを突きつけて批判する気にもなれなかった。プリムラEL808の言う通り、ただ『静かに暮らしたい』だけなのだろう。

二体がそう望むのも分からないこともない。彼女も商業施設でかつての生活を再現して静かに暮らそうともしていた。けれど、アンナやサーシャのことを知ってしまった今ではそれはもうできなかった。アンナを喪った今、サーシャの幸せに貢献するのが彼女の役目だった。だからこそ、あの虚構の町で実験動物としてメルシュ博士の自由にさせていてはいけないと思ったのだ。

必ず他の生存者も見つけ出し、サーシャと共に保護する。本当の人間の中で生きることこそが、あの少女にとっても幸せの筈なのだから。

そう考えていたタリアP55SIの前で、プリムラEL808が、トーマス、リンナ、レミカに魚を与えていた。生きた魚を手掴みでバリバリとかじる幼いCLS患者達の姿もまた、彼女にとっては哀れに見えた。この子供達に残っているのは人間のようにも見えるその姿だけだ。それ以外のものは全て失っている。この子達はもう人間ではないのだ。そしてそんな子供達を人間だと考えて母親のふりを続けるプリムラEL808。

これが、今のリヴィアターネの現実だ。死の惑星で偽りの日常が繰り返される狂気。それこそがこの世界なのだった。

しかしその一方で、当のプリムラEL808にとってはそれこそがどうでもいいことだった。彼女の元の主人は穏やかでお人よしの雑貨屋の女店主だった。物乞いが何度同じ嘘で施しを受けに来てもパンを与えてしまうような、底抜けに呑気な人物だった。彼女はそんな主人が好きだった。その主人が亡くなって、主人の子供達が自分を相続して、古くて使いにくいからと新しいものに買い替えられて業者に引き取られ、そしてここに投棄された。

ただの雑貨屋の女主人がどうして要人警護仕様のメイトギアを所有していたのかというにはこれにもちょっとした物語があるのだがここでは詳しくは触れない。だがプリムラEL808は、夫を早くに亡くし女手一つで三人の子供を育て上げた主人のことが好きだったから、自分もそうしたいと思っただけなのだった。

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