死の惑星に安らぎを

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
90 / 120

殺戮

しおりを挟む
「ケイン…それが僕の名前だ」

時間は若干遡り、嵐の中連れ去られた日から一ヶ月ほど経った頃、少年はようやく呟くようにそう口にした。エレクシアYM10に姉を殺され連れ去られてからずっと、彼はふさぎ込んでいた。エレクシアYM10はそんな彼に食事と寝床を与えたが、逃げ出そうとすれば容赦なく捕えて連れ戻した。暴力こそ振るわれなかったものの、彼にとって彼女の存在そのものが脅しのようなものだった。

彼女は、そんな少年=ケインを連れたまま4WD車を駆り、放浪を続けた。だがある時、彼女は緑深い山の途中で車をとめ、

「ここを動くな」

と彼に命じ、荷台から大砲の如き大きさの銃を取り出してどこかへ行ってしまった。しばらくすると、ターン、ターンと離れたところで銃声がするのが聞こえた。それを聞いたケインは咄嗟に、

『かなり離れてる…今なら逃げられる…!』

と思い立ち、4WD車から抜け出して森の中を必死に逃げた。だが、一時間もしないうちに方向さえ分からなくなり、疲れ果ててその場に座り込んでしまった。

「…手間を掛けさせるな…」

動けなくなってからほんの数分で、彼の前に人影が現れた。エレクシアYM10だった。彼は真っ直ぐ遠ざかるように逃げたつもりだったが、実際には方向を見失いぐるりと回っただけで4WD車から三百メートルと離れていない場所にいたのだった。それではもう、エレクシアYM10のサーモカメラで簡単に見付かってしまって当然だ。

そんなことが何度もあり、彼は逃げても無駄だと諦めてしまったのである。

それにしても、ケインを一人車に残してエレクシアYM10はいったい何をしていたのだろうか?

それもすぐに分かった。彼を車に乗せて山道を十分ほど走ったところで、彼女は再び車を止めていた。そこは山間やまあいに作られた小さな集落だった。車から降りて周囲を見回すと、何体ものメイトギアが破壊されて倒れていた。しかしそのうちの一体はまだ完全に破壊されておらず、体を起こそうともがいている。メインフレームは無事だったのだろう。

しかしエレクシアYM10はそのメイトギアに歩み寄り、一言も発することなく、腹に空いた穴に拳銃の銃口を押し込んで引き金を引いた。直後、もがいていたメイトギアの動きが止まる。メインフレームが破壊されたのだ。

ケインは理解した。エレクシアYM10はこうやって、ロボット達を破壊して回っているのだと。

すると呆然と立ち尽くす彼の前に、家の陰から、よろよろと小さな人影が歩み出た。子供だった。おそらく五歳かそこらの少女だった。だがその少女は、彼に近付くことさえできずに、パンパンと乾いた音と共に地面に倒れ伏したのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

無能力者と神聖欠陥

島流十次
SF
一度崩壊した世界は生まれ変わり、それから特に成長したのは人類の「脳開発」だった。頚椎にチップが埋め込まれ、脳が発達し、人は超能力を手にするようになり、超能力を扱えるものは「有能」と呼ばれる。しかし、チップを埋め込まれても尚能力を持てない者は多数いた。「無能」は『石頭』と揶揄され、第二新釜山に住む大学生、ググもまた、『石頭』であった。ある日、アルバイト先で、一人の奇妙な「有能」の少女と出会ってから、ググの日常はそれまでとは大きく変わってゆく。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

超レア消費アイテム生産者の異世界つえー物語~今ならもれなく全紛失したら死ぬ特典付きです~

安居 飽人
ファンタジー
 ※ほぼ毎日1話更新予定でございます。  ※第14回ファンタジー大賞に参加しています。少しでも面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録や投票してもらえると嬉しいです!  俺…持病があった普通の大学生『赤羽海斗(あかばね かいと)』は、あろうことか卒業式前日に死んだ。  そこに現れた女神に持病が原因だが、まだ死ぬ予定には早すぎたと謝罪と転生のチャンスを獲得し、やり込んだゲームに似ている世界へ転生する。その新世界では喉から手が出る程の超レアアイテムを動力とし、それを生み出せるチート能力を手に入れるが…全て失ったら即死亡という恐ろしい代償だった!?  全消費&全紛失=死!生産と消費という名の生きるか死ぬかの綱渡り!そんな条件で第二の人生を謳歌することが出来るのか!?いや、寿命まで生き延びて見せる!!

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

異世界で農業を -異世界編-

半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。 そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。

処理中です...