死の惑星に安らぎを

京衛武百十

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サオリ

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『星歴2007年10月6日。昨日は酷く気分が落ち込んだが、今日は少し楽になった。私が挫けてしまってはアンナはどうなる。それを思うと挫けてなどいられなかった。

私は思い出していた。サオリと交わした約束を。アンナのことを絶対に幸せにしようと二人で誓った約束を。

サオリと私は、幼い頃から兄妹のようにして育った。年齢は一つ下だが幼い頃から利発でしっかり者だったサオリは、無鉄砲なところがある私のことが心配で仕方なかったらしい。

子供の頃にはそんな感じでお節介焼きな彼女のことを疎ましく思っていた時期もあったが、年齢を重ねるごとに私の中で彼女の存在が大きくなり、大学を卒業する直前、就職が決まったのを機にプロポーズをしたのだった。

いや、正確には<させられた>と言うべきかも知れない。なにしろサオリの気持ちは、彼女自身の口から何度も告げられていて、後は私がけじめをつけるだけだったのだから。

結婚してすぐにアンナが生まれ、私達は幸せの絶頂だった。

そんなある時、勤務先で世話になっていた先輩から、一緒にリヴィアターネに入植することを勧められたのだ。まだ二歳にもならないアンナを抱えてのそれに私は正直言って及び腰だったが、自然豊かで環境もいいリヴィアターネでのびのびとアンナを育てたいと、むしろサオリの方が乗り気だった。

それに圧される形でここに来た私達だったが、確かにここでの生活は素晴らしく、人間らしい穏やかな暮らしができた。来る前は懐疑的だった私も、そんなことが嘘だったかのように馴染んでいった。

それなのに……

それなのに、どうしてこうなってしまったんだ!?

私はその苛立ちを、バリケードの外で私に襲い掛かろうともがくサオリに対して銃を向ける形で表面化させてしまった。だがそんな私を、『お止めくださいお客様!』と、メイトギア達が制した。こんな状態になってなお、ロボットにとってはサオリは守るべき<客>だったのだ。

私はもう、どうしていいのか分からなくなってしまった。

それでも、アンナだけは守らないといけないと、私は自分を奮い立たせた』



『星歴2007年10月27日。とうとう最後のメイトギアが動かなくなってしまった。そのままにしておいても大きな人形が置かれてるだけのようなもので邪魔になるし気分が滅入るので、台車に乗せて運び、バックヤードに放り込んできた。これまではメイトギアにやってもらってたが、最後の一体は私がやるしかなかった。

いよいよこれで、本当に私とアンナの二人だけになってしまったのだということを感じた。

私もいつまで耐えられるだろうか、自信がない』

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