死の惑星に安らぎを

京衛武百十

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倒壊

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この辺りは、どうやらかつてマニアと呼ばれる種類の人間達が多く集まる商業地域であったらしい。その為か、現れるCLS患者もアニメのTシャツなどをまとった者が多かった。そしてそれは彼女の元のオーナーと通ずるものがあったのかも知れない。

彼女は嬉々としてCLS患者を求めて廃墟の中を歩き回った。

彼女も、人間社会で使われていた時にはニュースなどでリヴィアターネでの惨劇は知っているものの、それ自体には別に興味もなかった。実際に惨状を見れば『ひどいですね…』とこぼしてしまったりはするものの、それだけだ。

彼女はただ、人間に<奉仕>することだけが目的のメイトギアであるが故に。そのようにセッティングされたが故に。

日が暮れるとCLS患者の活動も低下するので拠点へと戻り、メンテナンスと弾丸の補充を行う。

彼女が収容されていたコンテナにはコンバットルージュが実に十丁も同梱されており、彼女はその中で<赤の女王>と呼ばれる真っ赤なものを自らの愛用とし、他のコンバットルージュの弾倉を抜き取りそこに銃弾を詰めて自身のポケットに収納。銃弾を撃ちつくせば弾倉を交換するだけで再充填できるように工夫していた。

「さあさあおいでませ。死の天使の下へ」

自らを<死の天使>と称し、食料として襲いかかってくるCLS患者を次々と処置していく。その姿は確かに死をもたらす天使といった風情だった。

その間には、道路が突然陥没したり、近付いたビルが崩壊したりと危険なことは何度かあったが、彼女はそれらも上手く回避し、むしろそれを楽しんでさえいた。爆撃され焼き尽くされた廃墟という光景の中でなければ、それこそ人間の少女が遊んでいるようにしか見えなかっただろう。

それでいて物陰からCLS患者が現れれば誘うような仕草を見せ十分に引き付けて至近距離からコンバットルージュで確実にヘッドショット。その場に倒れ伏したCLS患者を赤いピンヒールで踏み付けて恍惚の表情を見せるという毎日を繰り返していた。

メイトギアには心はないので彼女がどの程度それを楽しみと捉えているのかは不明だが、彼女がそういう風に振る舞うのを彼女のオーナーは喜んでいたのだろう。

そして彼女、リリアJS605sがこの地に現れてから一ヶ月が経ったある日。いつものようにCLS患者を処置してやはり赤いピンヒールで踏み付けていると、突然、すぐそばのビルが崩壊、彼女の方へと倒れてきた。

しかし彼女はそれを察知。一般仕様とは言え生身の人間よりは優れた反射速度と身体機能を持っている為に、楽々と回避した。

回避した筈だった。だが、激しく崩れ落ちた瓦礫の一部が不規則な軌道を描きながら地面を跳ね、人間の頭よりも大きいそれがすさまじいスピードで彼女の頭を捉えたのだった。

「…え?」

予測しきれなかったその事態を把握するより早く、彼女の頭は瓦礫の直撃により粉砕された。

メイトギアの人工頭脳は頭部ではなく胸部に搭載されているのだが、頭が破壊されて動きが鈍ったところに自動車ほどの大きさの瓦礫が落ちてきて、リリアJS605sの姿は見えなくなってしまったのであった。

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