死の惑星に安らぎを

京衛武百十

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任務

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「星歴2017年4月13日。起動五回目。正常に起動しました…」

夜明けとともに、彼女、アレクシオーネPJ9S5は静かに起動した。コンテナ落着地点から直線距離にして百キロばかり離れたところにある拠点を目指し徒歩で移動してきて三日、彼女はようやく昨夜その拠点に到着したところだった。

拠点と言っても、軍用の作戦指揮車にメンテナンス用のトレーラーを連結しただけのものである。当然、生活用の設備など備えられている筈もないが、ロボットである彼女にはそれは問題ではなかった。全自動でメイトギアや、メイトギアよりは重労働向き、戦闘向きに設計されたレイバーギアをメンテナンスし、備え付けられたアミダ・リアクターによって充電を行うことが出来るので、十分だったのである。

アミダ・リアクターというのは、アレクサンドロ、ミラーテレス、ダーレグの三博士が開発に成功した、それまでの<原子力電池>とはまったく異なる原理(実は偶然によって発見されたものなので、その正確な全容は未だ解明されていない。つまり三博士はあくまで未知の現象を未知のままで実用化に成功しただけとも言える)によって放射性崩壊そのものからエネルギーを取り出す装置で、ある程度の質量を持った半減期の長い放射性同位体を燃料とすれば、理論上は数万年に渡って電力を得ることが出来るという画期的な発電装置である。もっとも、それが事実かどうかは今後数万年経ってみないと確認出来ないが。

まあそういう余談はさておき、リアクターによって充電を完了したアレクシオーネPJ9S5は、いよいよ自らの任務に取り掛かることになったのだった。

その任務というのは、平たく言えば<ゾンビ狩り>ということになるだろうか。九年前のロボット艦隊による大規模爆撃でも処理しきれなかったゾンビ、いや、偽生症(Counterfeit Life Syndrome)=CLS患者を安楽死させることが彼女の任務であった。その方法は実に単純明解。CLS患者の頭部を本体から切り離すか破壊するというものだ。

ネット上に流出したCLS患者の解剖映像からも分かる通り、CLS患者の頭部には人間としての脳は存在しない。CLSウイルスによって分解され、増殖したCLSウイルスが細菌の如く形成するカビのコロニーを思わせる白い塊に置き換わってしまい、それが肉体を制御しているのである。だから人間としては間違いなく死んでいるにも拘らず肉体だけが徘徊し、あまつさえ他の生物を襲い捕食するということを行うので、それをやめさせ人間としての尊厳を取り戻させ安らかな死を与えるというのが彼女の役目ということなのだ。

CLS患者は、生物や生物と思しき外見を有したものを襲う。故に、人間そっくりの外見を与えられたメイトギアは、彼らをおびき寄せる為の疑似餌としても非常に有効なのだった。

彼女はトレーラーの外に出て、ただ待っていればいいだけなのだから。

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