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たぶん、大丈夫

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何度も言うが、トルカの町は、領主がまともに統治もする気がない、本来は重要でもなんでもないただの僻地に勝手にできた<難民の集落>が基になったものだった。

だから領主の威光もロクに届かない。

それでも、

「おい、領主がとうとう、本気で隣の国と決着つけようと兵を動かしたらしいぞ」

交易をしている商人を通じてそんな噂が町に広がり、ここも戦場になるかも知れないという話があちこちで上った。

これを受けて町を離れる者も中にはいたものの、しかし多くの住人は、

『たぶん、大丈夫だろう』

とタカをくくっていつも通りの生活を営んでいた。それと言うのも、これまでにも何度も隣国との衝突はあったものの、ここも多少巻き込まれることもあったものの、いずれも戦場から逃げてきた兵士などが狼藉を働くぐらいで、完全に戦場になることは、少なくとも町が今の形になってからはなかったのだ。

町の規模から見ても分かる通り、地理的にもさほど重要な場所ではなかったのである。その所為で大きな戦火には巻き込まれなかったというのもあった。

だから今回も大丈夫だろうという、いわゆる<正常化バイアス>という感覚が働いたのだろうな。

これもあり、町はずれに半ば勝手に住み着く形で住んでいた者達の多くも、『自分には関係ない』とそのままの生活を続けていた者がほとんどだった。

まあ、そいつらの場合は、

『今さらどこに逃げても同じ』

というのもあっただろうが。

だが、日本でも、

『生まれてこの方、大きな災害とかなかったし』

と老人が語る場所で、数十年に一度、数百年に一度の規模の災害が起こったりするように、『これまで大丈夫だったから』は通用しない。

こうして本格的な冬を間近に控えたある日、隣国の軍隊が、突然、町になだれ込んできたのだった。

そしてそれを迎え撃つべく、形の上ではこの町を領地の一部にしていた側の軍隊も突撃してきた。

というのも、地の利を活かして町で迎撃するため、わざと侵入させたというのもあったようだ。

事実、

「くそっ! 何だこの町は!? 迷路じゃねえか!」

隣国の兵士が思わず毒づいたように、無計画に作られた町の複雑な構造に敵国の軍は戸惑い、圧され始めた。

この町の規模についてはそれなりに把握していた隣国は、十分な数の兵力を投入することでたやすく蹂躙できると踏んでいたようだ。しかしその目算が外れた形である。

もっともその際に行われた戦闘は、こちら側の国の軍も、町の住人のことなどまるで考慮しない、それどころか逃げ惑う住人を<人間の盾>のように使って敵を撃破するという、容赦のないものだった。

実はこのためもあって、ほとんど<ならず者の集団>のような軍を編成したというのもあったのだ。

『他人のことなどどうでもいい』

そんな風に考えられるような連中を集めたということだな。

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