57 / 92
仕事できんのかよ
しおりを挟む
主人が買った肉を差し出されてトレアは慌てた。
「そんな、滅相もございません……!」
両手をかざし、慌てて首を横に振る。
しかしそんな彼女に、藍繪正真は、
「いいから食え。命令だ」
と告げた。
するとトレアも、
「は、はい…!」
命令とあれば聞かないわけにもいかずに背筋を伸ばして肉を受け取り、二人で一緒に食べる。
『これはたぶん、塩を掛けて焼いただけだな。でも、美味い…! 久しぶりの肉は美味いな……!』
口の中に広がる肉の旨味に藍繪正真は脳内にドーパミンが噴き出すのを自覚していた。ロクな味付けもしてない、しかも向こうの日本で流通していたような食用に品種改良された牛や豚ではない、おそらく農耕馬か牛が潰れたのをばらしたんだろう。だから品質などお察しというレベルのはずだが、それでも久々の肉にテンションが上がる。
一方、トレアの方も、
「美味しいです…!」
と頬を染めながら声を上げた。ウサギやシカや野犬の肉なら何度か食べたこともあったらしいが、それでも滅多に食べられなかったので、こちらも静かに興奮している。
そうして腹と心を満たして、二人は<港>と目指した。
すると石を汲み上げて作られた護岸に粗末な桟橋が設けられただけのところに船が停泊しているのが見えた。どうやらこれが港のようだな。しかもちょうどそこで荷下ろしが行われているところだ。
『しょぼ……!』
藍繪正真はそんなことを思うものの、大型船舶が入るような港と比べるのが間違ってるぞ。
それでも荷物は結構扱っているようだ。人も多い。
しかし藍繪正真は気圧されたのか、ただそれを見ているだけだった。
『誰に話しかけたらいいのか分かんねえ……』
などと戸惑う。コミュニケーション能力のなさがもろに出たな。荷物を抱えて移動する連中を監視するように睨み付けている髭面の男がいたからそれが責任者なんだろうなと思いつつも、話し掛けられずにいたのだ。
するとトレアが、そこの責任者らしき髭面の男に近付いていって、
「すいません。私の主人が、ここで仕事をしたいと言っています」
と話し掛けた。話し掛けようかどうしようか藍繪正真が迷っているのを見かねてのことだ。
『トレア、ナイス……!』
実はそれを期待してトレアを連れてきたというのもある。トレアが話しかけてくれなくても、それでも彼女がいた方が勇気が出せる気がしていたのだ。
だが……
「あ…? 主人って、あのしみったれたヒョロいのか? 仕事できんのかよ」
髭面の男は渋い顔でそう言った。
『……なんだよ……』
男の言い草に、藍繪正真がムッと眉間にしわを寄せる。しかしそれに気付いたのか気付いてないのか、髭面の男はまるで編然としたままで、
「まあいい、お前、取り敢えずやってみろ。ちょうど次の便の荷物が多くて人手が足りなそうだったんだ」
と、憮然とした表情で立ち尽くしていた藍繪正真に声を掛けたのだった。
「そんな、滅相もございません……!」
両手をかざし、慌てて首を横に振る。
しかしそんな彼女に、藍繪正真は、
「いいから食え。命令だ」
と告げた。
するとトレアも、
「は、はい…!」
命令とあれば聞かないわけにもいかずに背筋を伸ばして肉を受け取り、二人で一緒に食べる。
『これはたぶん、塩を掛けて焼いただけだな。でも、美味い…! 久しぶりの肉は美味いな……!』
口の中に広がる肉の旨味に藍繪正真は脳内にドーパミンが噴き出すのを自覚していた。ロクな味付けもしてない、しかも向こうの日本で流通していたような食用に品種改良された牛や豚ではない、おそらく農耕馬か牛が潰れたのをばらしたんだろう。だから品質などお察しというレベルのはずだが、それでも久々の肉にテンションが上がる。
一方、トレアの方も、
「美味しいです…!」
と頬を染めながら声を上げた。ウサギやシカや野犬の肉なら何度か食べたこともあったらしいが、それでも滅多に食べられなかったので、こちらも静かに興奮している。
そうして腹と心を満たして、二人は<港>と目指した。
すると石を汲み上げて作られた護岸に粗末な桟橋が設けられただけのところに船が停泊しているのが見えた。どうやらこれが港のようだな。しかもちょうどそこで荷下ろしが行われているところだ。
『しょぼ……!』
藍繪正真はそんなことを思うものの、大型船舶が入るような港と比べるのが間違ってるぞ。
それでも荷物は結構扱っているようだ。人も多い。
しかし藍繪正真は気圧されたのか、ただそれを見ているだけだった。
『誰に話しかけたらいいのか分かんねえ……』
などと戸惑う。コミュニケーション能力のなさがもろに出たな。荷物を抱えて移動する連中を監視するように睨み付けている髭面の男がいたからそれが責任者なんだろうなと思いつつも、話し掛けられずにいたのだ。
するとトレアが、そこの責任者らしき髭面の男に近付いていって、
「すいません。私の主人が、ここで仕事をしたいと言っています」
と話し掛けた。話し掛けようかどうしようか藍繪正真が迷っているのを見かねてのことだ。
『トレア、ナイス……!』
実はそれを期待してトレアを連れてきたというのもある。トレアが話しかけてくれなくても、それでも彼女がいた方が勇気が出せる気がしていたのだ。
だが……
「あ…? 主人って、あのしみったれたヒョロいのか? 仕事できんのかよ」
髭面の男は渋い顔でそう言った。
『……なんだよ……』
男の言い草に、藍繪正真がムッと眉間にしわを寄せる。しかしそれに気付いたのか気付いてないのか、髭面の男はまるで編然としたままで、
「まあいい、お前、取り敢えずやってみろ。ちょうど次の便の荷物が多くて人手が足りなそうだったんだ」
と、憮然とした表情で立ち尽くしていた藍繪正真に声を掛けたのだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる