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今回必要なのはあくまで<冷徹な管理者>なんだから、指示待ち人間でいいの

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で結局、シャフセンバルト卿と話をしてどうなったかと言えば、卿の領地内全ての耕作地においてカリン商会の管理の下に同様の仕組みを作って収穫量の倍増を目指すという結論になった。しかも、シャフセンバルト卿自身が私達の後ろ盾になって。

これって事実上、貴族お抱えの業者になったってことだよね。

話を終えて帰ってから、アウラクレアもさすがに興奮してた。

「すごい! すごいよカリン! あなたの仕事が認められたんだよ!!」

嬉しそうに抱きついてきた彼女の目に、うっすらと涙が光ってたのも気が付いた。ネローシェシカの後を継いだ私がこうやって世の中の役に立とうとしてることが、ひいてはネローシェシカのしたことが正しかったんだっていうのを示すことになると喜んでるというのもあるんだろうな。

「ありがとう、クレア。でもそれもこれもあなたの協力があったからだよ。私一人の力じゃ殆ど何もできなかった」

私はそう言って、アウラクレアの体を抱き締めてた。そのあたたかさに包み込まれるのを感じながら。



でもこうなると、ますます忙しくなる。シャフセンバルト卿の領地内にある八つの町とその周囲に広がる農地全てでこれを取り入れるということになれば、それぞれの町に置く<カリン商会の支社>を任せる人間の人選だけでも一仕事だった。

噂を聞きつけて儲けられそうだと飛び付いてきた山師的な人間も間違いなく紛れ込んでるだろう。でも私は、こちらが提示した条件と業務内容を確実に守れる、責任感のある人でなければ任せられないと思ってた。指示待ち人間でいいの。いちいちこちらに指示を仰いでくる人の方がむしろありがたい。指示されてないことを自分で勝手に解釈してやらかす人間は本当に困る。的確な指示を出せないのは上司の能力不足だよ。ましてや面倒臭いからって『指示を待ってないで自分で動け』とか言うのはそれこそ論外。部下を信じるのと、責任を丸投げするのとはぜんぜん違う。

だから私は、無駄に自己アピールをしてくる人間は撥ねさせてもらった。私が尋ねたことだけに的確に応えてくる人だけを残して、他は早々にお引き取り戴いた。

「なんで俺がダメなんだ!?」とかしつこく食い下がってくるのもいたけど、今回必要なのはあくまで<冷徹な管理者>。バリバリものすごい勢いで進んでいくタイプはお呼びじゃない。そういうのが役に立つ場所は他にあるからそちらを当たって。ましてや金儲けだけが頭にあるのは要らない。

でないと、目先の儲けに走って大量に堆肥を投入、水質汚染等の環境被害を出すのが目に見えてたからだ。実際、向こうでもかつてはそういうことがあったし、今でも同様の事例が後を絶たないとも聞いてた。

それじゃ意味がないんだ。

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