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舐めプして自滅とか、ありがちすぎてビックリだよ

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バンクレンチは、バンクハンマを押し倒そうとしたのにできなかった。靴と地面の摩擦が足りなかったから滑ってしまっただけで、バンクハンマの姿勢そのものは全く崩れなかった。その瞬間、バンクレンチがギョッとしたような表情になる。

圧しきれずに踏みとどまられてしまっただけじゃなく、組んだ時にたぶん、分かってしまったんだろうな。バンクハンマの体幹の強さが。

「どうした? 昔のお前の方がもっと強かった気がするんだが、気のせいか?」

「なん…っ!」

『なんだと!?』と言いたかったのかもだけど、それは最後まで言えなかったみたい。上から覆い被さるみたいにして体重を掛けられると、明らかにバンクレンチの腰がぐらついた。素人目にも『あ、こりゃダメだ』って分かってしまった。

「土いじりしかしてない人間相手にこのザマか。せめて剣でも持ってりゃ違ったのかもしれないが、お前、足腰が弱ってるぞ。腕だけで剣を振り回してるんだろう? そんなんで敵を倒せるのかよ?」

そうやって呑気にしゃべってるバンクハンマを相手に、バンクレンチは身動きが取れないみたいだった。きっと本当は何か技とかを繰り出したいんだろうけど、そうしようとするとその瞬間に押し潰されるだろうなってのが傍から見てても分かる。

基礎体力がそもそも段違いなんだ。最初から技を駆使して翻弄すれば相手は武術については素人なんだから何とかなったのかもしれないけど、舐めてかかって馬鹿正直に圧倒しようとして組み付いたことで、素の体力の差が出てしまったんだろうな。舐めプして足を掬われるってやつか。

組み合ったままで全く動かない地味な絵面なのに、不思議とすごい力が感じられる光景だった。バンクレンチの顔からはだらだらと汗が滴り落ちる。まだ一分くらいしか経ってない筈なんだけどな。

で、結局、バンクレンチはとうとうそのまま力尽きたらしくて、その場に膝を着いてしまった。ぜえぜえと息を切らしながら。

バンクハンマは涼しい顔で姿勢を直して隊長さんに視線を向ける。

「これは先が思いやられるな。でも、半年もすればまあ少しはマシになるだろう」

だって。

バンクレンチは悔しそうに地面を叩いてたけど、自分の足腰の弱さについては思い知らされたみたい。それからはバンクハンマとは口もきこうとはしない代わりに言われたことはきちんとこなして、多分、一番真面目に働いてたと思う。

イヤミでひねくれた奴かと思ったら、根は真面目だったのかもしれない。弟として兄に対して強い対抗心があったから余計に噛み付いちゃったのかもね。

ただ、形が悪くて使いにくく、しばらく使ってなかった畑を、兵士の鍛錬と雪瓜の作付を試す為に耕し直すのは相当大変だったらしく、最初は皆、作業が終わる時には足腰立たなくなってたのだった。

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