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知らないところに放り出されたら、最初の出逢いが全てかもね

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私は普段、ミネラルウォーターしか飲まないから多少は水の味の違いも分かるんだけど、この噴水の水、何だかえぐいわね。ひょっとしたら地球のヨーロッパ辺りの水と同じで硬水ってことなのかしら。あ~、後でお腹壊すかも……

なんてことをぼんやり考えてると、私の前に誰かが立った。

「#############」

何気なく見上げた視線の先に、「やれやれ」って感じの表情かおをした、黒いマントを羽織って幅広の帽子を被った、いかにも<魔法使い>って風体の中年の女性が立ってた。

ごめんなさい。何言ってるのか分かりません。

私が困ったような顔を向けるとその女性は、自分の顎に指先をちょんと触れさせたあとで私の顎にもその指で軽く触れてきた。

え? 何?

と思った瞬間、

「どう? これで何言ってるか分かる?」

って、頭に言葉の意味が入ってきた。耳に聞こえてる音はさっきと変わらないのに、意味が分かるの。

「え…? あ、魔法!?」

すぐにピンときた。この人、魔法を使ったんだ。

私の言ったことも伝わったみたいで、彼女はにっこりと私に微笑んでくれた。

「あなた、異邦人ね? ひょっとして召喚魔法の事故か何かでこっちに来た人かしら?」

その言葉に思わず、

「え!? 私の他にもこっちに来てる人いるんですか!?」

って声を上げて腰を浮かしてしまった。

すると女性は「落ち着いて」って言ってくれて。

「やっぱりね。たまにいるのよ。未熟な魔法使いが無茶な召喚を行って、それに巻き込まれてこっちに来る人が。もっとも、私が知ってる話は、私のお師匠様から聞いた話で、もう百年以上前のことだけどね。だからその人は亡くなってる筈よ」

もしかしたら私以外にも同じような人がいるのかと思ったのに百年以上前で既に亡くなってると聞いて、私はがっくりと腰を落とした。

しかも『亡くなってる』ということは、こっちで亡くなったってことだと分かった。それはつまり、向こうに帰る方法はないということも意味してると悟ってしまった。

正直、向こうにそんなに未練がある訳じゃない。家族とは仲も良かったとは言えないし、これといった夢があった訳でも好きな人がいた訳でもない。ただ何となく普通に就職して普通に結婚して普通に子供を産んで、その子供が大きくなったら今の私みたいに家にも寄り付かなくなるんだろうなって何となく思ってただけだったし。

でも……

でも、だからってこんなのってないよ……

自分が置かれた状況を改めて実感してしまって、私は込み上げてくるものが抑えきれなかった。

ポロポロと涙を流す私に、女性はとても優しく言ってくれたのだった。

「私はネローシェシカ。見ての通り魔法使いよ。取り敢えず私の家においでなさいな。大きな迷子さん」

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