何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十

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彼女に抱きあげてもらえて

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ある日キリンが、ベッドの柵に掴まって、それをよじ登ろうとするかのような動きを見せた。

『つかまり立ちだ…!』

そう思った。キリンがいよいよ自分の足で立ち上がろうとしてるんだ。

すごい! すごい! 成長してる! 進化してる!

私の生んだこの子が、どんどん成長してる……!

それだけでもう泣きそうになる。

『がんばれ…! がんばれ……!』

声には出さずに見守った。

だけど、何度か挑戦してみて疲れたのか、その日は結局立ち上がれないままやめてしまった。

ああ、残念……

でも、まだだ。きっと次がある。

と思ってたら、次の日も同じように柵に掴まって足を踏ん張ろうとしてた。

『そうだよキリン。挑戦することが大事なんだ…!』

心の中で励ましながら、その時を待つ。

ああ、ベントがいる時だったらよかったのに……

彼は仕事に行ってる。私とエマだけでこの光景を独占するのは残念だけど、だからってキリンに挑戦させないのは違うよね。

エマも、声には出さないけど、包帯の隙間から真っ直ぐに視線を送り、目で応援してくれてるのが分かった。

彼女も本当にいい子だな。まあ、正確な年齢は分からないけど一応は成人してるらしい彼女に<いい子>は失礼なのかもだけど、私にとっては<一人目の子供>って感じがあるのも事実なんだよね。

それにエマは、まともに育ててもらえてなかったからか、精神的に未熟で、すごく幼い部分もある。そういう意味でも私にとっては子供みたいなものだ。

自分の思い通りにならない子を相手にどう接していけばいいのかっていうのを、彼女が経験させてくれた。

だから感謝してる。

そしてキリンも、包帯まみれの異様な姿をした彼女のことを、決して怖がらない。それどころか好きで、自分から寄っていこうとすることもある。

「抱いてあげて」

抱いてほしそうに手を伸ばして、

「うぷあ~っ」

と声を上げるキリンに戸惑うエマに、私はそう命令したこともある。

この国では普通なら、奴隷が子供に触れるなんてとんでもないことだと、それこそ殺されたっておかしくない<悪行>だった。

だけど私にとってはそんなの関係ない。キリンが抱っこしてほしがってるんだから、それを優先したい。

すると、エマは躊躇いながらも、キリンをそっと抱き上げてくれた。どう抱いていいかよく分からなかったみたいだけど、私の真似をして。

「うきゃ、あきゃっ♡」

彼女に抱きあげてもらえて、キリンはとても嬉しそうだった。そして包帯に包まれたエマの顔を小さな手でペチペチと叩き始めた。

大人の感覚ならエマの顔に触れるなんてと思うかもしれなくても、キリンにとってはただ好きな人に触れたいだけだと思う。

そんなエマにも見守られながら、キリンは頑張った。

そして―――――

上手く弾みがつけられたのか、ふいっとキリンのお尻が持ち上がって、彼女はベビーベッドの柵に掴まった状態で立ち上がったのだった。

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