何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十

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でも、ヘリーバンクレンが焼滅を免れたことは

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でも、ヘリーバンクレンが焼滅を免れたことは、思わぬ副産物ももたらした。

メロエリータに言われた通り、キリンとベントとエマと一緒にのんびりと過ごしていたある日、彼女が急に私達のところに訪ねてきたんだ。

「どうしたの? いきなり」

尋ねる私に、彼女は一冊の真新しい<本>を出してきた。

「とにかくこれを読んでほしい」

メロエリータが持ってきた<本>は、ヘリーバンクレンに伝わる古い文献を写したものだった。

「これって……!」

本の内容を理解した私の体が緊張する。

そこには、ガルフフラブラ王国の奴隷達の祖先とヘリーバンクレンの住人達の祖先は友好関係にあり、ガルフフラブラ王国の平民の祖先達を裏切ったとされていた話の詳細が記されてたんだ。

それによると、裏切ったのはむしろ王族や貴族としてガルフフラブラ王国を支配している人達の方で、それを隠蔽するために奴隷達の祖先に罪をなすりつけた形になっていたのが分かった。

「もちろん、これはあくまでヘリーバンクレンの住人達の祖先の視点から編纂された書物だからそのままを鵜呑みにすることはできない。ただ、これまで信じられてきたことをひっくり返す可能性のあるものでもある。なにしろこちらの記録の方がそれまで知られていたものよりも辻褄が合うからな」

メロエリータの言葉に、私は背中にじっとりと冷たい汗が浮かぶのが分かった。

なにしろこの内容を信じるとすれば、ガルフフラブラ王国そのものが転覆するかもしれないから。

奴隷達と彼らの祖先の名誉が回復されるとすればそれはもちろん喜ばしいことだけど、同時に、そのこと自体が大きな混乱とそれに端を発した戦乱へと発展していく可能性も少なくない。

それは果たして喜ぶべきことなんだろうか……

メロエリータは言う。

「私は別に、これを基にガルフフラブラ王国をどうこうするつもりは、少なくとも今はない。だが、お前がこの国の奴隷達のことを気に掛けているのは私も承知している。お前はどうしたいと思う? 私はそれに従おう」

「……ゆっくり養生しろとか言っといて、随分と大変な判断を持ってきてくれたもんだね……」

私は自分が思わず苦笑いを浮かべるのを感じながら、応える。

「それについてはすまんと思う。だが、放っておくとお前はまた自分で何とかしようとするだろう。その前にお前の意向を確認しておきたかったのだ」

突然提示された重大な案件に、私は目を閉じ、腕を組んだ。

そんな私に、

「ママ……?」

キリンが心配そうに声を掛けてくる。

私は、そんなキリンを見て、決断したのだった。

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