528 / 535
でも、ヘリーバンクレンが焼滅を免れたことは
しおりを挟む
でも、ヘリーバンクレンが焼滅を免れたことは、思わぬ副産物ももたらした。
メロエリータに言われた通り、キリンとベントとエマと一緒にのんびりと過ごしていたある日、彼女が急に私達のところに訪ねてきたんだ。
「どうしたの? いきなり」
尋ねる私に、彼女は一冊の真新しい<本>を出してきた。
「とにかくこれを読んでほしい」
メロエリータが持ってきた<本>は、ヘリーバンクレンに伝わる古い文献を写したものだった。
「これって……!」
本の内容を理解した私の体が緊張する。
そこには、ガルフフラブラ王国の奴隷達の祖先とヘリーバンクレンの住人達の祖先は友好関係にあり、ガルフフラブラ王国の平民の祖先達を裏切ったとされていた話の詳細が記されてたんだ。
それによると、裏切ったのはむしろ王族や貴族としてガルフフラブラ王国を支配している人達の方で、それを隠蔽するために奴隷達の祖先に罪をなすりつけた形になっていたのが分かった。
「もちろん、これはあくまでヘリーバンクレンの住人達の祖先の視点から編纂された書物だからそのままを鵜呑みにすることはできない。ただ、これまで信じられてきたことをひっくり返す可能性のあるものでもある。なにしろこちらの記録の方がそれまで知られていたものよりも辻褄が合うからな」
メロエリータの言葉に、私は背中にじっとりと冷たい汗が浮かぶのが分かった。
なにしろこの内容を信じるとすれば、ガルフフラブラ王国そのものが転覆するかもしれないから。
奴隷達と彼らの祖先の名誉が回復されるとすればそれはもちろん喜ばしいことだけど、同時に、そのこと自体が大きな混乱とそれに端を発した戦乱へと発展していく可能性も少なくない。
それは果たして喜ぶべきことなんだろうか……
メロエリータは言う。
「私は別に、これを基にガルフフラブラ王国をどうこうするつもりは、少なくとも今はない。だが、お前がこの国の奴隷達のことを気に掛けているのは私も承知している。お前はどうしたいと思う? 私はそれに従おう」
「……ゆっくり養生しろとか言っといて、随分と大変な判断を持ってきてくれたもんだね……」
私は自分が思わず苦笑いを浮かべるのを感じながら、応える。
「それについてはすまんと思う。だが、放っておくとお前はまた自分で何とかしようとするだろう。その前にお前の意向を確認しておきたかったのだ」
突然提示された重大な案件に、私は目を閉じ、腕を組んだ。
そんな私に、
「ママ……?」
キリンが心配そうに声を掛けてくる。
私は、そんなキリンを見て、決断したのだった。
メロエリータに言われた通り、キリンとベントとエマと一緒にのんびりと過ごしていたある日、彼女が急に私達のところに訪ねてきたんだ。
「どうしたの? いきなり」
尋ねる私に、彼女は一冊の真新しい<本>を出してきた。
「とにかくこれを読んでほしい」
メロエリータが持ってきた<本>は、ヘリーバンクレンに伝わる古い文献を写したものだった。
「これって……!」
本の内容を理解した私の体が緊張する。
そこには、ガルフフラブラ王国の奴隷達の祖先とヘリーバンクレンの住人達の祖先は友好関係にあり、ガルフフラブラ王国の平民の祖先達を裏切ったとされていた話の詳細が記されてたんだ。
それによると、裏切ったのはむしろ王族や貴族としてガルフフラブラ王国を支配している人達の方で、それを隠蔽するために奴隷達の祖先に罪をなすりつけた形になっていたのが分かった。
「もちろん、これはあくまでヘリーバンクレンの住人達の祖先の視点から編纂された書物だからそのままを鵜呑みにすることはできない。ただ、これまで信じられてきたことをひっくり返す可能性のあるものでもある。なにしろこちらの記録の方がそれまで知られていたものよりも辻褄が合うからな」
メロエリータの言葉に、私は背中にじっとりと冷たい汗が浮かぶのが分かった。
なにしろこの内容を信じるとすれば、ガルフフラブラ王国そのものが転覆するかもしれないから。
奴隷達と彼らの祖先の名誉が回復されるとすればそれはもちろん喜ばしいことだけど、同時に、そのこと自体が大きな混乱とそれに端を発した戦乱へと発展していく可能性も少なくない。
それは果たして喜ぶべきことなんだろうか……
メロエリータは言う。
「私は別に、これを基にガルフフラブラ王国をどうこうするつもりは、少なくとも今はない。だが、お前がこの国の奴隷達のことを気に掛けているのは私も承知している。お前はどうしたいと思う? 私はそれに従おう」
「……ゆっくり養生しろとか言っといて、随分と大変な判断を持ってきてくれたもんだね……」
私は自分が思わず苦笑いを浮かべるのを感じながら、応える。
「それについてはすまんと思う。だが、放っておくとお前はまた自分で何とかしようとするだろう。その前にお前の意向を確認しておきたかったのだ」
突然提示された重大な案件に、私は目を閉じ、腕を組んだ。
そんな私に、
「ママ……?」
キリンが心配そうに声を掛けてくる。
私は、そんなキリンを見て、決断したのだった。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。
円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。
魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。
洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。
身動きもとれず、記憶も無い。
ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。
亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。
そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。
※この作品は「小説家になろう」からの転載です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる