518 / 535
御託より現実を見てもらうんだ
しおりを挟む
いよいよトカマクラさんの畑の一部で、堆肥を使った栽培を試す段階に来た。
するとトカマクラさんは、躊躇うことなく堆肥に手を突っ込んで、その感触を確かめてた。粘りとか湿度とか、そういうものを確かめてるのかもしれない。それを確かめた上で、自分の畑にはどのくらい混ぜればいいのかを見極めようとしてるんだろうな。
「まずはトカマクラさんの思うようにやってみてください」
私の言葉に、彼は、
「ふん……俺を試そうってか? ならその挑発に乗ってやる。もし俺が失敗したら精々嗤うがいい」
憮然とした表情でそう言いながら堆肥を畑に撒き状態を逐一確かめながら漉き込んでいった。
その丁寧さに、私は胸が躍るのを覚えた。
これまでにも、とにかくたくさん使えばたくさん収穫が得られると考えて、私が指示した分量を大きく超えて堆肥を使おうとした人はいた。だけどそういうのは結局土のバランスを崩して思ったほどは増えなかったりするんだよね。
それでも元の状態よりは増えたりもするから効果があると考えてさらに増やそうとする人もいた。だけど、ある点を越えたら急にまた収穫量が減ることもあるのが農業の難しさだ。
人間の体と同じだよ。いくら健康にいいって言われてる食べ物とかでも食べ過ぎると逆に体調に悪影響が出たりする。なんにでも<頃合い>っていうものはあるんだ。それをわきまえないとダメなんだ。
だけどトカマクラさんは、一見したら本当に堆肥を混ぜてるのかどうか分からない程度を混ぜていく。
慎重に確かめながらというのもあるかもしれないけど、それ以上に彼には確信があるのかもしれない。
そして、ここでも栽培されてた雪瓜に非常に近い作物の種を植えていった。
同時に私も、畑の一部を借りて私なりのやり方で試させてもらうことにする。
彼の言った通り、御託より現実を見てもらうんだ。
ただ、私のやり方は、トカマクラさんのそれによく似ていた。つまり彼は、私があれこれ指示しなくても自分で適切な使い方を探り当てたんだ。
すごいよ。本当にすごい。
世界にはそういうすごい人がたくさんいる。なのに十把一絡げにされて排除されたり抑圧されたりしてる。それって人間社会からしたら大きな損失だよ。トカマクラさんにはこれからも立派な畑を作ってもらいたい。
本人が輸出とかには興味なくてあくまでこの街を支えるだけになってるけど、収穫が増えてくれば使い切れなくなって捨てることになるかもしれない。そうなってきたらやっぱり輸出するっていうのも選択肢に入るんじゃないかな。
そもそも他所に売ろうとしなかったのは、あくまでこの街に十分な食料を供給することが目的みたいだから、それを後回しにしてまでお金を儲けようとは思わなかっただけかもしれないね。
するとトカマクラさんは、躊躇うことなく堆肥に手を突っ込んで、その感触を確かめてた。粘りとか湿度とか、そういうものを確かめてるのかもしれない。それを確かめた上で、自分の畑にはどのくらい混ぜればいいのかを見極めようとしてるんだろうな。
「まずはトカマクラさんの思うようにやってみてください」
私の言葉に、彼は、
「ふん……俺を試そうってか? ならその挑発に乗ってやる。もし俺が失敗したら精々嗤うがいい」
憮然とした表情でそう言いながら堆肥を畑に撒き状態を逐一確かめながら漉き込んでいった。
その丁寧さに、私は胸が躍るのを覚えた。
これまでにも、とにかくたくさん使えばたくさん収穫が得られると考えて、私が指示した分量を大きく超えて堆肥を使おうとした人はいた。だけどそういうのは結局土のバランスを崩して思ったほどは増えなかったりするんだよね。
それでも元の状態よりは増えたりもするから効果があると考えてさらに増やそうとする人もいた。だけど、ある点を越えたら急にまた収穫量が減ることもあるのが農業の難しさだ。
人間の体と同じだよ。いくら健康にいいって言われてる食べ物とかでも食べ過ぎると逆に体調に悪影響が出たりする。なんにでも<頃合い>っていうものはあるんだ。それをわきまえないとダメなんだ。
だけどトカマクラさんは、一見したら本当に堆肥を混ぜてるのかどうか分からない程度を混ぜていく。
慎重に確かめながらというのもあるかもしれないけど、それ以上に彼には確信があるのかもしれない。
そして、ここでも栽培されてた雪瓜に非常に近い作物の種を植えていった。
同時に私も、畑の一部を借りて私なりのやり方で試させてもらうことにする。
彼の言った通り、御託より現実を見てもらうんだ。
ただ、私のやり方は、トカマクラさんのそれによく似ていた。つまり彼は、私があれこれ指示しなくても自分で適切な使い方を探り当てたんだ。
すごいよ。本当にすごい。
世界にはそういうすごい人がたくさんいる。なのに十把一絡げにされて排除されたり抑圧されたりしてる。それって人間社会からしたら大きな損失だよ。トカマクラさんにはこれからも立派な畑を作ってもらいたい。
本人が輸出とかには興味なくてあくまでこの街を支えるだけになってるけど、収穫が増えてくれば使い切れなくなって捨てることになるかもしれない。そうなってきたらやっぱり輸出するっていうのも選択肢に入るんじゃないかな。
そもそも他所に売ろうとしなかったのは、あくまでこの街に十分な食料を供給することが目的みたいだから、それを後回しにしてまでお金を儲けようとは思わなかっただけかもしれないね。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる