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その畑をよく知っている人が自分の手で合った土を
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『俺の畑にはこのままじゃ使えねえな』
私が用意した、堆肥を混ぜた土を見たトカマクラさんはそう言ってくれた。私はそれが嬉しかった。彼がちゃんと自分の畑のことを熟知してて、その上でそう言ってくれたのが分かったから。
「はい、そうですね…! その通りです! トカマクラさんの畑で作ってる作物には、このままじゃ強すぎます。だから配合する分量を変えるんです。堆肥というのは、それができます。作物に合った土を自分で作ることができるんです。これは決して魔法じゃありません。その畑をよく知っている人が自分の手で合った土を作れるというのが堆肥の利点なんです」
私は嬉しさのあまり、土を掴んでたトカマクラさんの手を取って、はしゃいでた。
すると彼は、カアッと顔を赤くして、
「バ…ッ! バカヤロウ! 気安く触んじゃねえ…っ!」
だって。
私は直感した。
『あ、この人、実は可愛い人だ』
ってね。
だけどそんなこと口にしたらヘソを曲げちゃうかもしれないからもちろん言わない。ただ一層、
『私、この人好きだな』
って思っただけだ。
そして、だからこそこの街を焼滅なんてさせたくないと思った。
キリンと同じ幼い子がいるだけじゃない。この街にもこんなに誠実で魅力的な人は何人もいるんだ。それをただ消し去っていいわけないよ。
だけどその一方で、<ネズミ食い>が他の国に広まれば、今度はそこにいる人達が犠牲になる。キリンと同じ幼い子供達も含めて。
そんなことも許せるわけない。
だったらどっちも救うしかないじゃん。
私は人間だ。人間だから自分がこうだと思ったことには貪欲になるよ。エゴだって剥き出しにする。自分の手の届く範囲のことなら、どっちも諦めない。
自分にはどうしようもないことでぎゃあぎゃあ騒ぐつもりもないけど、自分にできることなら足掻いてやる。
ブラドフォンセス王国でも、<抗生物質>の量産化が本格的に始まったらしいしさ。
ただ、そちらはまだまだもしパンデミックが起きた場合にそれを抑え込めるほどのものじゃないから、焼滅作戦を中止させるほどのものじゃないみたいだ。
でも、それぞれ同時進行で<自分にとって守りたいもの>のために動く。人間の社会というのは、そういうものだ。
その中で、不幸な衝突が起こったりもする。でもさ、それを嘆いているだけじゃダメなんだ。
回避したい不幸があるなら、自分が動かなきゃ。自分にできることをしなきゃ。
だから私は自分にできることをする。
簡単には諦めない。諦めた奴には、掴みたいものも掴めないからね。
私が用意した、堆肥を混ぜた土を見たトカマクラさんはそう言ってくれた。私はそれが嬉しかった。彼がちゃんと自分の畑のことを熟知してて、その上でそう言ってくれたのが分かったから。
「はい、そうですね…! その通りです! トカマクラさんの畑で作ってる作物には、このままじゃ強すぎます。だから配合する分量を変えるんです。堆肥というのは、それができます。作物に合った土を自分で作ることができるんです。これは決して魔法じゃありません。その畑をよく知っている人が自分の手で合った土を作れるというのが堆肥の利点なんです」
私は嬉しさのあまり、土を掴んでたトカマクラさんの手を取って、はしゃいでた。
すると彼は、カアッと顔を赤くして、
「バ…ッ! バカヤロウ! 気安く触んじゃねえ…っ!」
だって。
私は直感した。
『あ、この人、実は可愛い人だ』
ってね。
だけどそんなこと口にしたらヘソを曲げちゃうかもしれないからもちろん言わない。ただ一層、
『私、この人好きだな』
って思っただけだ。
そして、だからこそこの街を焼滅なんてさせたくないと思った。
キリンと同じ幼い子がいるだけじゃない。この街にもこんなに誠実で魅力的な人は何人もいるんだ。それをただ消し去っていいわけないよ。
だけどその一方で、<ネズミ食い>が他の国に広まれば、今度はそこにいる人達が犠牲になる。キリンと同じ幼い子供達も含めて。
そんなことも許せるわけない。
だったらどっちも救うしかないじゃん。
私は人間だ。人間だから自分がこうだと思ったことには貪欲になるよ。エゴだって剥き出しにする。自分の手の届く範囲のことなら、どっちも諦めない。
自分にはどうしようもないことでぎゃあぎゃあ騒ぐつもりもないけど、自分にできることなら足掻いてやる。
ブラドフォンセス王国でも、<抗生物質>の量産化が本格的に始まったらしいしさ。
ただ、そちらはまだまだもしパンデミックが起きた場合にそれを抑え込めるほどのものじゃないから、焼滅作戦を中止させるほどのものじゃないみたいだ。
でも、それぞれ同時進行で<自分にとって守りたいもの>のために動く。人間の社会というのは、そういうものだ。
その中で、不幸な衝突が起こったりもする。でもさ、それを嘆いているだけじゃダメなんだ。
回避したい不幸があるなら、自分が動かなきゃ。自分にできることをしなきゃ。
だから私は自分にできることをする。
簡単には諦めない。諦めた奴には、掴みたいものも掴めないからね。
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