509 / 535
横っ面をひっぱたいて私の胎の中に押し込んで
しおりを挟む
町長の言葉は、苦悩そのものだった。それ以外の何物でもなかった。何百年もの歴史の中で虐げられるしかできなかった人達の苦しみそのものだった。
それに対して結局は第三者でしかない私が何か慰めようとしたり励まそうとしたりしてもただただ空々しいだけだろうな。
でも、私は言わずにはいられなかった。
「町長。私は国を失ったという経験がありません。だから皆さんのお気持ちが分かるとは言いません。
ただ、私は、子を持つ母親でもあります。私の生んだ子が何者かに理不尽に踏みにじられ殺されることを思うと、それだけで腸が捩じ切られんばかりに怒りに打ち震えます。
この街にも、当然、私の子と同じように幼い命が息づいています。それらを救う手立てがあるのに何もせずにただ死を待つだけなど、命を賭して子を生みだした母親としては我慢がならないのです。
我が子がそんな泣き言を並べていたら、横っ面をひっぱたいて私の胎の中に押し込んで、ぎゅうぎゅうに締め上げて改めて産み直してやりたいですよ。
人は、生まれてくる時にすでに生きるか死ぬかのぎりぎりの苦しみを乗り越えて産声を上げたんです。母親の胎の中では安穏としてられたかもしれないけど、そこから産道を通って外の世界に出てきて産声を上げるまでは、全身を締め付けられ、呼吸もできない。
命懸けだったのは、母親だけじゃない。赤ん坊もそうなんです。
そこまでして死に抗い、生を掴み取ったというのに、どうしてそんな簡単に諦めるんですか? 私は納得できない。だから私は、自分にできることがあるならするんです」
「……」
私の言葉に、マホマトリスタレ町長は唖然とした様子を見せた。そして……
「……私は、生まれてくる時、母親を殺したのです……」
って……
「……!」
今度は私が息を呑む番だった。
そんな私に向かって町長は続ける。
「私が生まれた時、私の母は死にました……そして私は、母の妹によって育てられたのです。十三の頃にそれを聞かされ、私は自身を呪いました。母親を殺した自分がのうのうと生きていていいのかと思ったのです……
育ての母は『気にしなくていい。そういうものだ』と言ってくれましたが、私は納得できなかった。納得できないまま、母を殺した私に生きる意味があるのかをずっと問い掛けてきました……
その結果、こうして町長という役目まで負えるようになったものの、それでもまだ納得はできなかった。
でも、今、あなたの言葉を受けて、何か一つ、答えを得た気がします。
そうですね。母は命を懸けて私を産み、そして私は自ら生を掴み取った。その私が簡単に諦めていたら、母にこっぴどく叱られるでしょうね」
それに対して結局は第三者でしかない私が何か慰めようとしたり励まそうとしたりしてもただただ空々しいだけだろうな。
でも、私は言わずにはいられなかった。
「町長。私は国を失ったという経験がありません。だから皆さんのお気持ちが分かるとは言いません。
ただ、私は、子を持つ母親でもあります。私の生んだ子が何者かに理不尽に踏みにじられ殺されることを思うと、それだけで腸が捩じ切られんばかりに怒りに打ち震えます。
この街にも、当然、私の子と同じように幼い命が息づいています。それらを救う手立てがあるのに何もせずにただ死を待つだけなど、命を賭して子を生みだした母親としては我慢がならないのです。
我が子がそんな泣き言を並べていたら、横っ面をひっぱたいて私の胎の中に押し込んで、ぎゅうぎゅうに締め上げて改めて産み直してやりたいですよ。
人は、生まれてくる時にすでに生きるか死ぬかのぎりぎりの苦しみを乗り越えて産声を上げたんです。母親の胎の中では安穏としてられたかもしれないけど、そこから産道を通って外の世界に出てきて産声を上げるまでは、全身を締め付けられ、呼吸もできない。
命懸けだったのは、母親だけじゃない。赤ん坊もそうなんです。
そこまでして死に抗い、生を掴み取ったというのに、どうしてそんな簡単に諦めるんですか? 私は納得できない。だから私は、自分にできることがあるならするんです」
「……」
私の言葉に、マホマトリスタレ町長は唖然とした様子を見せた。そして……
「……私は、生まれてくる時、母親を殺したのです……」
って……
「……!」
今度は私が息を呑む番だった。
そんな私に向かって町長は続ける。
「私が生まれた時、私の母は死にました……そして私は、母の妹によって育てられたのです。十三の頃にそれを聞かされ、私は自身を呪いました。母親を殺した自分がのうのうと生きていていいのかと思ったのです……
育ての母は『気にしなくていい。そういうものだ』と言ってくれましたが、私は納得できなかった。納得できないまま、母を殺した私に生きる意味があるのかをずっと問い掛けてきました……
その結果、こうして町長という役目まで負えるようになったものの、それでもまだ納得はできなかった。
でも、今、あなたの言葉を受けて、何か一つ、答えを得た気がします。
そうですね。母は命を懸けて私を産み、そして私は自ら生を掴み取った。その私が簡単に諦めていたら、母にこっぴどく叱られるでしょうね」
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる