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帰れ。俺はお前みたいな奴の口車には乗らん

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『帰れ。俺はお前みたいな奴の口車には乗らん』

いきなりそうカマしてくれたトカマクラさんだったけど、私は逆にこの人は信頼できると思った。自分の畑に対して誠実なんだ。だから私のしてることがしっかりと道理に沿ったものだというのが伝われば、分かってくれると思う。

でも、『帰れ』と言われたことだし、

「分かりました。今日のところは帰ります。でも、私も伊達や酔狂で今の仕事をしてるわけじゃないんです。だからそれをお見せするために準備をしてきます」

そう言って畑を後にした。

「おい、すんなり帰ってよかったのかよ?」

リオドレクがそう訊いてくるけど、私は笑顔で、

「うん。今日のところはね。でも、私は逆に手応えを感じたよ。あなたにとっては<ムカつく頑固ジジイ>かもしれないけど、私は好きだ。トカマクラさんは立派な人だよ」

と返させてもらった。

するとリオドレクも、視線を逸らしながらだけど、

「……まあ、信念だけはりっぱだけどよ……」

と、憎まれ口にも聞こえつつ、でもどこか照れてるみたいな印象もあった。反発はしてても本当に嫌いってわけでもないんだろうな。

私と私の両親との関係とは違う。ただちょっとお互いに不器用で言葉が足りないだけで、決して憎しみ合ってるわけじゃない親子なんだって感じた。

そうだな。こういう親子だったら、<感動的な親子の和解>っていうドラマも有り得るんだろう。

残念ながら私と私の両親とでは、これはないけどね……



なんてこともありつつ、リオドレクの家に戻った私は、さっそく、

「壊れて使われなくなったものでいいから、古い樽を一つ用意してもらえるかな。それと、ショベルと土。土は別にどんなのでもいい。適当で」

ってお願いする。

「まあ用意するのは構わないけどよ。どうすんだそんなもん?」

「いいからいいから。トカマクラさんに分かってもらうにはちゃんと結果を見せないとだし」

私は、持ってきたカバンの中に用意してきたものがちゃんとあるか改めて確認して、

「じゃ、用意ができる前での間に、私は町長のところに顔を出しに行ってくるから。それからひょっとしたらあちこち寄り道するかもしれないし、顔を出すのは明日になると思う」

と告げた。

「宿は決まってんのか?」

そう問われて、私はブルクバンクレンさんを見ながら、

「彼が泊ってる宿に空きがあるそうだから、そこに逗留するつもり」

という訳で、私はブルクバンクレンさんと一緒に今度は町長のところへと向かった。

そっちも、すでに根回しは済んでたんだよね。

やっぱり、持つべきものは有能な協力者だよ。

ありがたい。

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