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いってらっしゃ~い♡
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誰か一人の力で世界が救われるとか、私は夢物語だとしか思わない。たった一人の人間がそんな特別な存在になれるとは思わない。
歴史に残る<英雄>も、それを支えるたくさんの人達がいてこそのものだと思うんだ。そしてその中には、名前こそ出ないけど、実は英雄に勝るとも劣らない活躍をした人もいる筈なんだ。
英雄はあくまで<神輿>だったり<旗印>だったりしただけでさ。
私も、<神輿>でいい。それで結果としてたくさんの人が救われるなら。
失敗した時には私一人に責任が降りかかるだろうけどね。
でも、上に立つ者というのは、本来、そういうものだと思うんだ。
だけど私は、ジャンヌダルクになるつもりはない。すべての罪を被せられて火炙りになるつもりはない。戦争に加担するつもりはないんだ。
戦争以外の方法で、助けられる人を助けたい。
今回のことが失敗したら、私は、<稀代のほら吹き>として嘲笑を浴びることになるだろう。これまで得たものすべてを失うことになるかもしれない。
けど、それは覚悟の上だ。
むしろその覚悟もなく世の中を動かそうだなんて、思い上がりも甚だしい。
『何もかもを失って最後に残ったのは私自身だけ』
となっても構わない。そうなったらまた、一から出直せばいいだけだ。
畑を耕して、ね。
自分自身が残ってれば、どこからでもやり直しはできるよ。
どうせ元々、身一つでこの世界に放り出された人間だ。元に戻るだけだ。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
ヘリーバンクレンに向けて出発する日、私はそう言って立ち上がった。
「いってらっしゃい、ママ」
キリンが笑顔で私を見送ってくれる。それがまた、申し訳ない。
出発に向けての準備をする二日間だけ、キリンとずっと一緒に過ごした。彼女にいっぱい甘えてもらって、彼女をいっぱい抱き締めて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝て、「あのねあのね」と話しかけてくるキリンの拙い話に耳を傾けた。
彼女のすべてを、受け止めた。
彼女をこの世に送り出した者として、そのすべてを。
別にこれを今生の別れにするつもりはない。そしてキリンも、私が帰ってくることを疑ってない。いい子で待ってたら必ずママは帰ってきてくれると信じてくれてる。
私は、そのキリンの信頼に応えなきゃいけない。
だから私も笑顔で手を振るんだ。
「ベント、エマ、キリンをよろしくね」
「ああ、分かってる」
「いてらっしゃいませ、ご主人様」
玄関で三人に見送られ、
「じゃ、行ってくる」
と、迎えの馬車に向かって私は歩いた。
「いってらっしゃ~い♡」
大きく手を振るキリンに手を振り返しながら。
歴史に残る<英雄>も、それを支えるたくさんの人達がいてこそのものだと思うんだ。そしてその中には、名前こそ出ないけど、実は英雄に勝るとも劣らない活躍をした人もいる筈なんだ。
英雄はあくまで<神輿>だったり<旗印>だったりしただけでさ。
私も、<神輿>でいい。それで結果としてたくさんの人が救われるなら。
失敗した時には私一人に責任が降りかかるだろうけどね。
でも、上に立つ者というのは、本来、そういうものだと思うんだ。
だけど私は、ジャンヌダルクになるつもりはない。すべての罪を被せられて火炙りになるつもりはない。戦争に加担するつもりはないんだ。
戦争以外の方法で、助けられる人を助けたい。
今回のことが失敗したら、私は、<稀代のほら吹き>として嘲笑を浴びることになるだろう。これまで得たものすべてを失うことになるかもしれない。
けど、それは覚悟の上だ。
むしろその覚悟もなく世の中を動かそうだなんて、思い上がりも甚だしい。
『何もかもを失って最後に残ったのは私自身だけ』
となっても構わない。そうなったらまた、一から出直せばいいだけだ。
畑を耕して、ね。
自分自身が残ってれば、どこからでもやり直しはできるよ。
どうせ元々、身一つでこの世界に放り出された人間だ。元に戻るだけだ。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
ヘリーバンクレンに向けて出発する日、私はそう言って立ち上がった。
「いってらっしゃい、ママ」
キリンが笑顔で私を見送ってくれる。それがまた、申し訳ない。
出発に向けての準備をする二日間だけ、キリンとずっと一緒に過ごした。彼女にいっぱい甘えてもらって、彼女をいっぱい抱き締めて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝て、「あのねあのね」と話しかけてくるキリンの拙い話に耳を傾けた。
彼女のすべてを、受け止めた。
彼女をこの世に送り出した者として、そのすべてを。
別にこれを今生の別れにするつもりはない。そしてキリンも、私が帰ってくることを疑ってない。いい子で待ってたら必ずママは帰ってきてくれると信じてくれてる。
私は、そのキリンの信頼に応えなきゃいけない。
だから私も笑顔で手を振るんだ。
「ベント、エマ、キリンをよろしくね」
「ああ、分かってる」
「いてらっしゃいませ、ご主人様」
玄関で三人に見送られ、
「じゃ、行ってくる」
と、迎えの馬車に向かって私は歩いた。
「いってらっしゃ~い♡」
大きく手を振るキリンに手を振り返しながら。
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