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抗生物質そのものが発明されることも必要に

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ペストと言えば、中世ヨーロッパ(うろ覚えだけど確か十四世紀頃だっけ?)で大流行し、当時のヨーロッパの人口の四分の一だか三分の一だかを死に至らしめたっていうことで有名な恐ろしい病気っていうイメージだけど、実は病気としては割とありふれたものなんだよね。

ただ、抗生物質が普及する以前だと、一度流行し始めると手に負えなくなったっていうだけで。

だから<抗細菌魔法>がまだ普及してないこの世界では流行させないようにしなくちゃいけないし、たとえ普及しても抗生物質のように『はい、これ飲んでくださいね』と渡してしまえばいいわけじゃないから、大流行しちゃうとやっぱり手に負えなくなってしまう。

そういう意味では、魔法使い頼みの<抗細菌魔法>だけじゃなく、抗生物質そのものが発明されることも必要になってくるだろうな。

私としても研究したいところだけど、さすがに私一人で何もかもじゃあ、いくら何でも無理がある。

それに私は、抗生物質については大体の原理は知ってても、専門家じゃない。まず抗生物質というもの自体から勉強しないといけない。

果てしないなあ……

これはもう、私がヒントだけ与えて研究は他の誰かに任せた方がいいかな。

でもそれは今ここにいる患者を何とかしてからか。

思ったように効果が上がらないことで、一人だけに掛かりきりになることはできなかった。重症の患者を優先しつつ複数の患者に同時に<抗細菌魔法>をかけて様子を見てって形になった。

こうなると迂闊に眠ることもできない。寝ている間に急変する可能性もあるからね。

それでも、私一人で全部やったわけじゃない。療養所担当の魔法使いにも手伝ってもらう。私が<抗細菌魔法>をかけつつ、従来の<治癒魔法>によって患者の免疫力を高め、魔法の効果を上げる工夫をする。

「このロウソクが消えたら起こして…」

燭台に立てたロウソクを指差しながら、私は言った。さらに続けて、

「でも、もし私が寝てる間に患者の様子がおかしくなったら、遠慮はいらないからすぐに叩き起こして」

とも付け足しておく。

ロウソクが消えるまでの時間は、約一時間。これを何回にも分けて睡眠をとる。

なんだか、キリンが生まれたばかりの頃を思い出すな。

だけどその時ほどは長くはならないはずだ。

大丈夫。もちこたえられる。

実際、キリンの時のことを思えば、耐えられた。

そうして三日。

特に重傷だった患者の様子が明らかに落ち着いてきた。ペスト菌もほとんど不活性化してる。

「もう、大丈夫です……」

私自身、すごくホッとしながらそう告げると、安堵の空気が広がったのだった

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