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いろいろと根回しするのに必要な期間でもあった

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大使の理解を得られたことは、本当に幸いだった。もちろんその後も万事順調とはいかず、一ヶ月くらい全く話が進まなくて放っておかれたりもしたけど、それはいろいろと根回しするのに必要な期間でもあった。大使はちゃんと動いてくれていたんだ。

その間は、あれこれ焦っても仕方ないので、堆肥化事業の方に精を出す。

と、並行してガルフフラブラ王国の魔法使い達に<抗細菌魔法><抗ウイルス魔法>の伝授ももちろん行ってて、そこにどうやら大臣の息が掛かった役人が視察にやってきた。

「……随分と質素な教室ですな」

魔法使いの横のつながりを利用して順番に来てもらってるだけだからってことで役所の一室を借りてやってたそれを見て、役人が呟くように言った。

「ええ、そうですね。ただ、伝授する魔法そのものは特別な修練を必要とするものではないので、これで十分なのです」

私が応えたところに、一歳くらいの赤ん坊を抱いた母親らしき女性が駆け込んできた。

「お願いします! この子をお救いください!」

実際に魔法を使いながら伝授していくために、臨時の診療所としても機能してたから、こうやって患者が来るんだ。

「失礼」

役人にそう声を掛けて、私は早速、赤ん坊を診る。

ここで魔法の伝授を行ってる半日程度の間にも、平均すると二十人くらいの患者が来るんだ。その赤ん坊も、熱が高く、明らかにしんどそうだった。

すると私がベッドに下ろそうとした瞬間、刺激になったのか、赤ん坊の体に力が入ってびちびちびちという感触と共に、ふわっと臭いがその部屋に充満した。

下痢だ。それも大量の。赤ん坊を抱いた手に湿り気を感じる。軟便どころか完全な水様便だった。

『ロタウイルスか……』

「タライに湯を! それから重湯の用意!」

講習に来ていた魔法使い達と係員達にそう指示しながら、私は赤ん坊の服を脱がせた。赤ん坊は辛すぎて泣く元気もないようだ。ふうふうと荒い息をしてるだけだった。

私の手は白っぽい水様便で汚れたけど、そんなことは気にしてられない。赤ん坊の世話をするというのはこういうことだ。ロタウイルスはキリンも罹って同じ症状が出た。その時の経験もあって落ち着いて対処できた。

たっぷりと湯を張ったタライを二つ用意してもらって、まずは赤ん坊の全身を洗って便を流す。水様便だったからおしめの中に納まらなくて背中や脚の方まで汚れてたし。

この国では、以前も言ったけど石釜で常に水を沸かしてるから、湯はすぐに用意できるのが助かる。もっとも、それがなくても魔法で湯を沸かせばいいだけだから、湯沸かし器があるのと同じなんだ。

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