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大変な自信だが、確かな算段があってのことでしょうな?

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『疫病なれば、私ども魔法使いの領分でありますゆえ』

私がそう言った時、大臣の目がピクリと反応したのが分かった。だから私はさらに踏み込む。

「私は精霊に愛されております。私の頼みとあらば精霊達はたちどころに悪しき病魔を退け、諸侯の憂いを晴らしてみせましょう!」

やや大袈裟に、芝居がかった感じでそう大見得を切った。知らない人からすると大言壮語に見えるだろうけど、私としては十分に勝算があってのことだ。

すると大臣は、やっぱり訝し気な表情は崩さないけれど、その目には確かに興味の光を揺らめかせつつ、私に問い掛けた。

「大変な自信だが、確かな算段があってのことでしょうな?」

『よし! 食いついた……!』

思わず小躍りしたくなるのを抑えつつ、私は続ける。

「もちろんでございます。私がすでにこの国においても疫病対策を推し進めていることは聡明な大臣であればお聞き及びでありましょう。さすれば此度の災禍を祓う任において私の他に適する者はおらぬと自負しております…!」

「お…おお、そうであったな……!」

実はこの時、大臣は私がこの国の魔法使い達に<抗細菌魔法><抗ウイルス魔法>を順次伝授していることまでは知らなかったそうだけど、私が『聡明な』と言ったものだから、知らないとは言えなかったみたいだね。

で、後は、

「今はまだこの国での仕事が残っております故すぐにとはまいりませんが、それでも、諸侯らのご依頼となればこの不肖カリン・スクスミ、命を賭して災禍を祓って御覧にいれまする…!」

と締め括った。



会議の後、ファルトバウゼン王国の大使が、

「いやはや、さすがはスクスミ侯。ファルトバウゼン王国を救ってくださった英雄だ。私としては今すぐにでも貴公に国に帰ってきていただきたいくらいですよ」

と言ってくれた。それが単なる社交辞令であっても、悪い気はしなかった。ただ、私が、今、望んでいるのは、賞賛を受けることでもファルトバウゼン王国への帰還でもない。ヘリーバンクレンを救うことだ。

「ありがとうございます。身に余る光栄です」

そう返させてもらいながらも、大使の公邸に戻ってから、詳細な打ち合わせを始めた。いずれ全体会合にも出席して各国の合意を得ないといけない。それに向けての準備だ。勝手なことをして反感を買うのは得策じゃないからね。<お墨付き>は大事だよ。

と、しばらく話をしてから、不意に大使が言った。どこか嬉しそうな表情だと思った。

「実を申し上げると、私は、貴公が爵位を固辞した件については、あまり快く思っていなかった者の一人なのです。ですがこうして実際に貴公とお会いして言葉を交わしてみると、なるほどと納得しました。

貴公は爵位の縛りを受けて良い人ではない。爵位は貴公にとってはむしろ足枷となりましょう」

「大使……」

「スクスミ殿、この度のヘリーバンクレンの件、必ず成功させてみせましょうぞ……!」

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