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締めるところは締めてくれれば何とかなりそう

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半年後に着手することを条件にブルクバンクレンさんの<仕事>を引き受けた私は、これまで以上に堆肥化事業の推進に力を入れた。期限は半年だ。それまでに軌道に乗せなきゃいけない。

とは言っても、別に反対してる人がたくさんいる訳でもないそれは、順調に行ってたけどね。

まあ、奴隷が変に重要視されるようになることに嫌悪感を抱く人ももちろんいたけど、だからって、

『奴隷に人権を与えろ! 虐げるな!』

とか言ってるわけじゃないから、表立って反対する訳にもいかないって感じみたい。ただ単に、

『大事な道具なんだから勝手に壊さないでね』

って話なだけだし。

魔法を使える奴隷を勝手に壊されると堆肥化の手順に支障が出る。そんな形で堆肥の供給が滞ったりしたらそれこそ国益に反するってことで責任問題だし、場合によっちゃ国家反逆罪に問われることだってありえる。

さすがにたかが奴隷のためにそこまでしようっていう人もそんなに多くないんだよ。せいぜいが通りがかった時に罵ったりする程度かな。

それすらするなとは敢えて言わないでおく。多少のガス抜きも必要だから。

加えて、奴隷の方だってそのくらいなら慣れたものだ。対して気にもしていない。そういうことに慣れなきゃいけない環境って現代日本からするとやっぱりとんでもない話だとしても、ここじゃ普通だから。

細々としたトラブルはありつつも、そのくらいなら新しいことを始める時にはあって当然だろうし、想定の内だ。

ただ、そうやって私が仕事に打ち込んだ分、キリンとは顔を合わせる時間がさらに減っちゃったけどさ。

だけどそれを、ベントとエマが補ってくれる。特にベントは、まるで母親みたいに包み込むようにしてキリンに接してくれた。そんな風にして子供と接する男性はこの国には滅多にいないから、かなり奇異な目で見られてただろうけどね。

とは言え、そういう部分は、

『外国人だから変わってるんだろうな』

ってことで。

さらに言うと父親は育児にはほとんど関わらなくてたまに偉そうに説教垂れるだけって感じだから、ベントがしっかりと締めるところは締めてくれれば何とかなりそう。エマもいるし。

まあ、エマは本人がまだ精神的には子供同然だから、やっぱり<優しいお姉ちゃん>って感じだろうけど。

だけどそれでも、やっぱりキリンには迷惑をかけることになっちゃいそうだな……

ごめん……



そうやって堆肥化の仕事も推し進めつつ、ファルトバウゼン王国の大使に、ヘリーバンクレンについての話を持ち掛けてみた。

『ヘリーバンクレンを救いたい』という話としてじゃなく、一向に進まない同盟国側に対する<助け舟>としてね。

「まだ話がまとまらないようですね。病の件が問題であれば、私がその病を根絶して差し上げましょうか?」

って感じでさ。

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