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ありがとう、キリン。あなたのおかげで

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キリンは本当にいい子だ。それも、何もかもが私の思い通りにならない、ちゃんと自分の気持ちを表に出してぶつけてくれるのがいい。

大人の顔色を窺って<いい子のフリ>をするのは、私は決していい子だとは思わない。むしろ<危険な子>だとさえ思う。

私はキリンより長く生きてて、当然、それなりも経験を積んできてる。その私がキリン相手におたおたしたり感情的になるのは本来なら恥ずかしいことだと何度も自分に言い聞かせる。

そうやって自分を律する姿をキリンに見てもらって、そして学んでもらいたい。

そんな風にしてたらね、癇癪を起す必要がなくなるんだよ。私達に対して反発しなきゃならない理由がなくなるんだ。

どんなことでも、原因があって初めて結果がある。どんなに理不尽に思える子供の癇癪でも、そこには理由が必ずある。

大事なのは、親の側が、その<原因>と向き合う姿勢を示せるかだと思う。

自分の方に原因があるのにそれを認めずに相手の所為にしてる姿を見せてれば、子供はそんな親の姿を見倣って、自分が悪くてもそれを認めない人間になるんじゃないかな。でないとおかしいよ。

『自分に原因があるのにそれを認めずに自分以外の誰かにそれをなすりつけて誤魔化そうとする』

なんていう方法を、どうやって身に付けるの?

誰から学び取るの?

親か、すぐ身近な人間しかいないじゃん。

二歳とか三歳の子供が見るようなものでそんな姿勢をとるのって、他にある?

こうやってキリンと向かい合ってみて、改めて確かめた。何度も何度もたくさんの人と接してきて感じたことを。

人間は、人間と向き合うことでいろんなことを学ぶ。そして子供はそれがとても分かりやすい。私やベントやエマのことをすごくよく見てる。見て、真似しようとしてる。

キリンは、私の<鏡>だ。この子の瞳には私が映ってる。私がこの子を作ってる。

人が人を作るんだ。得体のしれない<何か>じゃない。

私はそれをキリンから教わってる。

すごいな、人間って。

ありがとう、キリン。あなたのおかげで、私は自分がこうして生きてるんだっていうのを実感できる。



そんなある日、私のところに一人の人が訪ねてきた。

「やあ、ご無沙汰しております。キリン殿」

「え…あ、ブルクバンクレンさん……?」

そう。ムッフクボルド共和国でまあいろいろあった時に、敵対したりお世話になったりした間諜だ。

「よく入国できましたね」

ここ、ガルフフラブラ王国とムッフクボルド共和国とは、直接は敵対してないけど、敵対してる国の中にガルフフラブラ王国の同盟国があるから実質的には敵国なんだ。

すると彼は、

「あなたがムッフクボルド共和国に入国できたんですから、私にも同じことはできますよ」

と、ニヤリと笑ったのだった。

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