上 下
473 / 535

現実問題として、任せるしかないと思ってたんだ

しおりを挟む
新しい大使の話によると、その<ヘリーバンクレン>という街は、ほとんどの住人が魔法の適性を持たず、かつ近隣の国々から迫害を受けてきた少数民族の子孫が人口の九割を占めるという、見捨てられた街だった。

って、ん…? <ヘリーバンクレン>…? どっかで聞いたような名前だな……

あ、いや、それはさて置き、とにかくその街には<風土病>とも言うべき病気があって、その街の住人は罹ってもそんなに大変なことにはあまりならないそうなんだけど、他所の人間がそれに罹ると八割方死んじゃうっていう恐ろしい病気だそうだ。

それだけなら関わり合いにならなければ問題ないとしても、その街の商人や出稼ぎ労働者がこっそり他の国に入り込んだりってことがあって、それをきっかけに病が広がるんじゃないかっていうのを懸念してるってことみたいだね。

実際に調べてみないと分からないものの、これはあれだ。その街の人達は免疫があるんだけど、他の地域の人達にはそれがないから重症化するってことだろうなと推測できる。

だけど、それにしたって、数千人の住人ごと街を焼き払うっていうのは、さすがに……

でも、同時に、死亡率八割の恐ろしい病気が他の地域でパンデミックを起こしたりしたらそれこそ国が亡ぶレベルの話だ。それぞれ、数十万、数百万の国民を抱えた国々にとっては、それだけの自国民の命と、正直どうでもいい人間達数千人の命とを秤に掛ければ答なんて決まってる。数千人の命を犠牲にして自国民を守るのが結論だ。それを責めることはできないと思う。

ただ、結論は決まってても、やっぱり数千人もの人間を、それこそ小さな子供まで含めて皆殺しになんてのは、そうそう決断できないってのも当然だろうな。

むしろ、その話が簡単に決まってしまわないことに、私はホッとしていた。この世界の人達もちゃんと人間として真っ当なんだっていうのを感じたからさ。

とは言え、危険に曝されていることも事実。いずれそういうことになるんだろうなと、その時の私は考えただけだった。

私自身、その街の人達が助かってほしいとは思う。助ける方法が見付かってほしいとは思う。だけどこの時の私は、ガルフフラブラ王国でのウンチの堆肥化事業を抱えてたし、その両方を同時になんて無理だったから。しかもいくつもの国の偉い人達がどうするべきかっていうのを話し合ってるところに首を突っ込んで、

『虐殺反対!』

なんて叫んだところで、対案もない現状じゃ狂人扱いされて放り出されるのがオチだろう。

だから、現実問題として、任せるしかないと思ってたんだ。

この時はね……

しおりを挟む

処理中です...