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たとえ何百年かかってでもね

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もし私が自分の価値観に固執して、

『奴隷反対!』

『身分制度反対!』

みたいな声を上げて活動とかしてたら、きっと、こんなにうまくはいってなかったと思う。危険思想の持ち主ということで国から睨まれて、今よりずっと仕事がやりにくかったどころか、国外追放だってあっただろうな。

重要な同盟国であるファルトバウゼン王国から派遣されたVIPだから、しかも自分達が助力を乞うたことで来たわけだから迫害もできなくて扱いに困ってね。

もっとも、だからってそういう活動をしてる人に『そのやり方は間違ってる!』って言いたいわけでもない。ただ、私自身はそういう活動に対してどうしても信用しきれない、胡散臭さを感じてしまうっていうのがあるから、自分はそのやり方はしないっていうだけなんだ。

世の中にはそういうやり方の方が届く人もいるかもしれないしさ。そういう人に向けた活動としては、意味はあるんだろうなとは思ってるよ。

だけど、私には届かない。

届かないどころか反発さえ覚えてしまう。

いろんな方向からのアプローチがあって当然なんだと思うんだ。私のようにそういうやり方には反発してしまう人間に向けてのやり方だってあっていいと思う。

だからこそ、私は自分のやり方を他人には押し付けない。届く人には届いてくれたらいいし、そうじゃない場合には他のやり方をする人が現れてくれればいいと思ってる。

でも、だからって暴力的なやり方には、賛同できないけどね。

それしかない場合もあるんだとしても、是認はしない。是認をしないということが、過激なやり方を、その必要がない時にまで当て嵌めてしまうようなのを抑制するんじゃないかな。

過激なやり方っていうのは、本当に慎重に、抑制的に使う必要があると思うんだ。でないと、

『こんな救いのない世界は破壊してしまえばいい!』

ってところまで振り切れてしまうかもしれないし、私はそれは認めたくないし。

私の大切な人達がそれに巻き込まれて命を落としたりなんてのは、許せないから。

そんな過激なことをしなくたって、ベントもキリンもきっと耳を傾けてくれるよ。力も貸してくれるよ。

『正義の為だったら何をしてもいい』

っていうのが受け入れられないだけだよ。

奴隷制度とか身分制度とかを無くしていく為には、必要なリソースを確保するのが重要だと私は思ってる。そしてその為に私は働いてる。今の社会を根底から変えていけるだけの下地作りを、私はしたいんだ。

『奴隷制度や身分制度は必要ないよね』

っていう言葉が説得力を持つような状況に、まずしていきたいんだよ。

たとえ何百年かかってでもね。

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