何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって？ そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが！！

私のイメージの大半は彼が作ってくれたもの

ここで生きていくために、この世界の価値観を尊重するために、私は奴隷との付き合い方もキリンに教えていくことになる。

でも、だからって新たに奴隷を作っていけばいい、奴隷のように従順な人間を作っていけばいいと言ってるんじゃない。そんな考え方をしてほしいとは思ってない。特に、平等とか人権とかが当たり前になってる現代日本で奴隷を作るなんてのは、それはもうはっきりと不法行為だと私も思う。だってもう、平等とか権利とかが当たり前の世界に生きるメンタリティになってるんだから。

そうじゃなくて、ここのような、＜奴隷という存在そのものが社会基盤になっている社会＞での話だ。ここで当たり前に生きていくために必要な感覚のことだ。

ただ同時に、単に迎合するだけでもダメだと思ってる。それじゃ私が私である意味がない。

だから、私なりの奴隷との付き合い方を模索してきた。

そして、私なりの奴隷との付き合い方をするのを、私が外国人だからということで、ここの人達に納得してもらうようにしてきた。

『外国人だから、ちょっと変わってる』

ってことでね。

エマにキリンを抱かせたのも、それだ。

エマがキリンを抱いたことが近所の人達に知れたら、普通なら大変なことになる。それこそ集団リンチを受けて殺されたっておかしくないだろう。

だけどそこは、私が外国人だから自分達とは違ってて、それでそんな変なことをした。っていう風に理解してもらうんだ。

でもそれって、ご近所の人達の私に対する印象が悪ければ、逆に、

『だから外国人は！』

っていう反発にも繋がりかねない。だからこそ私はきちんと仕事をこなすように心掛けてきたんだ。そうすることで信頼を得るために。

それに加えて、私の場合、ベントの存在が大きかったな。彼がものすごく上手くご近所付き合いをしてくれたから、私のイメージの大半は彼が作ってくれたものじゃないかって気がする。

そういう面でも彼には感謝の気持ちしかない。本当に素晴らしい人だ。

彼の助けもあって、私はここで普通に生きていけてる。そして、エマも普通に生きていけてる。

むしろ、

『変な外国人に買われて奴隷も大変だな』

なんていう空気感さえあるように仕向けていく。

そのへんは、おおむね上手くいってたと思う。

こういう部分も結局、私自身が、そしてベントが、みんなの信頼を勝ち取ってたからっていうのもあるだろう。

『信頼を得る』ってのはそれだけ大事なことなんだ。

そして信頼を得るためには、自分の価値観ばっかり相手に押し付けてたらダメだっていうのもある。

私がこの国の制度や、奴隷達の扱いについて、ことさら騒ぎを起こさなかったからっていうのもあると思うんだよね。