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分からないことがあれば訊いてくれなきゃ困る

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私は基本的に、現場に出る人間については<指示待ち人間>しか採用しなかった。それは、勝手な判断で余計なことをされたら困るから。

だけど、だからといって<イエスマン>が欲しいわけじゃない。むしろ、何か疑問があったり納得のいかないことがあればちゃんとこっちに確認を取ってくれるほうがありがたいんだ。

そうやってきちんと確かめて、その上で仕事をしてほしい。そしてその中から仕事のことをきちんと理解して、他の人に説明できる人が出てきてくれればそれでいいんだ。

で、それができるようになったら任せてしまう。

時間はかかるかもしれないけど、手間はかかるかもしれないけど、確実に仕事を引き継いでもらう為だ。

私もいずれ死ぬ。死ぬまでの間でも、ファルトバウゼン王国から追い出されたみたいにいつまでもいられない場合だってある。

だから仕事を引き継いでもらわなくちゃいけない。私がいなくなったら元の木阿弥じゃ何にも意味がないんだ。

だからこそ分からないことがあれば訊いてくれなきゃ困る。訊かずに勝手な判断でやられちゃ困る。

『何でもかんでも訊いてくるな』

なんてことを言うような上司は、自分が楽をしたいから言ってるだけだと思う。そんなのはむしろ無責任だ。仕事が確実に引き継がれることが大事だと思えばこそどんどん訊いてもらうべきだと私は思う。

<積極性>って、そういうところで発揮されたらいいと思うんだ。実はちゃんと分かってないのに訊くのを遠慮して勝手な解釈でやられるのが一番困る。そんなことしてたら滅茶苦茶になってしまう。

で、ちゃんと分かるまで教えてあげられれば、もう私がいなくても大丈夫になるんだよ。

自分以外の人間でも、自分と同じことができるようになる。同じことができるようになる人は現れる。

『自分しかできない』

なんて思い上がりだし、他人を馬鹿にしてるよ。

芸術家とかクリエイター関係だと、なるほど<その人にしか作れない作品>というのはあるかもしれなくても、技術系はね。その技術を受け継ぐ人を育てていかなきゃいけないんだ。

だけど、親子関係はそうはいかない。キリンの母親は私しかいないんだ。

と言うか、この子をこの世界に送り出したのは他でもない私だ。その私がこの子を見捨てたら、それは自分の責任のすべてを投げ出すのと同じじゃないかな。

仕事は私以外の人にも同じことができるようになってもらわなきゃ困るけど、この子をこの世に送り出した張本人は、他の誰でもない私だし、誰も代われないんだ。

それを思うとやっぱり私の場合は仕事の方が気が楽だなあ。

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