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みっともないとこ見せてごめん

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誰だ? 『赤ちゃんはコウノトリが連れてきてくれる』とか『キャベツから生まれる』とか寝惚けたことを言った奴は…!? ふざけるのもいい加減にしろ!

正直、そう思うよ。まあ、幼い子供に出産の実態をそのまま教えたら確かにトラウマになるかもしれないけどさ……

けど、どうやら私はその恐ろしい経験を生き延びたようだ……

産婆さんが何かしてるのをぼんやりと見てたら、朦朧となった私の耳に、みゃあみゃあと、なんか猫が鳴いてるような声が聞こえてきた。

「ほれ、元気な女の子だよ」

そう言って産婆さんが私の胸の上に<それ>を置いた。私の胸の上で<それ>は、手とか足とかぴくぴく動かしながらみゃあみゃあ鳴いてた。

『あれ……?生まれたばかりの時ってしわくちゃで猿みたいって聞いてたのに……綺麗じゃん……』

というのが、正直な印象だった。産湯に浸かったからかもしれないけど、やけに綺麗な顔してる気がしたんだ。

…って、女の子……!? てっきり男の子だと思ってたのに……!?

ようやく少しだけ意識がはっきりしてきて、そんなことを思ってしまった。

『そっかあ……女の子かあ……こりゃ、私そっくりの、クセの強い子になりそうだなあ……』

とか考えてた私に、

「よく頑張ったね……カリン。お疲れ様。ありがとう……」

ベントが私の額にキスしてくれる。汗だくな上に涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってたのに。それから、濡らした手拭いで私の顔を丁寧に拭いてくれたんだ。いや~、どうせなら拭いてからキスしてほしかったかな。何だか申し訳ないよ。

だけど、

「……ありがとう……おかげで頑張れた……でも、みっともないとこ見せてごめん……」

ロクに覚えてないけど、たぶん、百年の恋も冷めそうな姿を晒してたんだろうなってだけは分かる。でもベントは、

「僕の娘のために頑張ってくれたカリンの姿を、みっともないだなんて誰が思うものか」

だって。かーっ! こんな時にもイケメンだな……!

けど……嬉しい。

「愛してる…ベント……」

「私もだよ、カリン……」



とかなんとかありつつ、私は、無事、長女のキリンを産んだ。

漢字で書くと、<麒麟>だ。実在の動物のキリンじゃなくて、伝説の方の麒麟のイメージね。

日本でだとキラキラネームだとかなんだとか言われそうだけど、そもそも麒麟って漢字が名前に使えたかどうか知らないけど、日本で子供を産んでたらそれも調べてからつけるところだけど、ここじゃそういうの関係ないから、いいじゃん。

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