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いろんな人がいるから社会は社会として成立するんだよ

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冬が過ぎて、再び空気が暖かくなりはじめた頃、次の作付が始まった。ほとんどはセリス商会の社員達の指導の下で。

私は、すこしポッコリとなったお腹を抱えて、椅子に座ったままで監督してた。

でも、することはあまりない。みんなちゃんと分かってくれてるから。

ただ、私がここにいるということで緊張感をもってやってるだけだ。

中にはちょっと横着する人もいるからねえ。

だけどそれも含めて頑張ってくれてると思う。優秀な人もいれば『どうもなあ』って思う人もいる。それが普通だ。優秀な働き者しかいない社会なんて、むしろ気持ち悪い。チート能力を持った主人公が何の努力もなしで周囲から絶賛されるフィクションよりもはるかに有り得なくて気持ち悪いと私は思う。

いろんな人がいるから社会は社会として成立するんだよ。って言うか、社会って本来はそういうもんだと思うんだ。

全員が優秀で誰一人決められたことに背かなくて、完璧に一つの目標に突き進んでいくなんて、そんなのは<社会>じゃなくて<装置>だと思う。<装置>は、すべての部品がきちんと自分の役目を果たさなくちゃ機能しないけど、社会はそうじゃないからね。

いろんな人がいて、その中でもダメな人が一定数いることそのものが自然なんだよ。

この世界にだって、そういう人はいる。

そんな人が紛れ込んじゃ困る仕事は、ちゃんと選別すれば済む話だ。

そして、ある仕事じゃまるで役立たずだった人が別の仕事では素晴らしい才能を発揮したりする場合もある。

一般的な社会人としてはどうしようもない<ロクデナシ>だった人が、芸術だったり創作の世界ではすごい人だったりっていうのもよくある話じゃん? 昔の有名な<作家>でも、作品はすごいけど本人の人間性は……って感じでさ。

あと、普通の仕事をさせればダメダメな人でも、他人のやる気を引き出すのは上手かったりって話もあるよね。私が知ってる<ヒモ男>でも、その人と付き合ってる女性は『彼のために』メチャクチャ頑張ってて、結果も残してるんだよ。その彼と付き合う以前はただ単に真面目なだけが取り柄の<お茶汲み係>みたいな人だったのに。

こういうのを<割れ鍋に綴じ蓋>って言うんだろうか。

不思議だよね。もっとも、私にはその<ヒモ男>のどこがいいのかさっぱり分からなかったけど。

そういうことも、私にとっては価値が無いように見えても、それは『本当に価値が無いという証明にはならない』っていうのを感じるきっかけになったんだ。私の価値観だけが正しいわけじゃないってことだよ。

それが分かるから、私はこの世界でも生きていける。幸せになれるんだ。

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