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相変わらずでしたよ。見た目も、雰囲気も

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『リータと会ったってこと…!?』

私は思わずそう問い掛けていた。するとバンクレンチは、

「ええ、何度か。最近は顔を合わせてませんけど」

って事もなげに言う。

「……元気そうにしてた?」

私が再度問い掛けると、

「そうですね。相変わらずでしたよ。見た目も、雰囲気も。マクタと一緒に仕事してたみたいです」

とのことだった。

そうか……ベルトマクタとね。なんか納得。バンクレンチが続ける。

「でも、あっちこっちの国を飛び回って商売してるそうですね。一つ所に留まってるわけじゃないみたいです」

そうなんだ……まあ、元気にしてるならいいか。私と連絡を取らないのも、何か考えがあってのことだろうし……

一通り話し終えて、私は立ち上がった。

でも、

「だから、もっと体を労わってくださいって言ってるんです!」

って、また叱られた。

「さっきも言いましたけど、うちもそれで一人目を亡くしてるんです。そのせいであいつはひどく落ち込んで……俺はもうああいうのは御免なんです」

「分かった…分かったから…」

悲しそうに私を見詰めるバンクレンチに、さすがに気圧されてしまった。

だけど、彼の言うことももっともだ。だから私も仕事をセーブしようとしてた。でも、自分ではセーブしてるつもりでも、他人から見るとっていうのは確かにあるよね。

そんな訳で、体を温めるようにして、椅子を用意してもらって、それに座った状態で指導を続けることになった。

「ホントはもっとおとなしくしててほしいですけどね」

まだ不服そうだったけど、バンクレンチも辛うじて納得してくれたみたいだった。私の役目を考えると、おとなしくしてるだけというわけにもいかないも分かってはくれてるんだ。

その後、バンクレンチは、すぐさま帰っていった。リレにも私のことを知らせないといけないし、何より奥さんと子供達を放っておけないということで。

なのにこうやってわざわざ来てくれたんだ。手紙は当てにならないからって。今でも私のことをこんなに気にしてくれてるのが嬉しかった。

ちなみに、<リレのところの下請け>というのは、今は農業指導の仕事もしてるってことだそうだ。トゥルカ商会プリエセルエラ公国支社になる前のアリエ商会だった頃に正式に契約して、会社が変わってからもその契約は続いてるんだって。

こうやって少しずつ技術が更新されていくんだな。現代の、情報の伝達速度が異次元のレベルに達した地球でさえ、実際の技術の習得にはそれなりの時間がかかる。だから大陸の西側全体にそれが広がるまでだけでも、私が生きてる間には無理だろう。

それでも、いつかはって思うかな。

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