何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって？ そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが！！

それこそ至難の業だっていうのが分かるなあ

これだけ虐げられてれば、そりゃ憎まない方がおかしいよね。

エマはその点、憎むことさえ諦めてたみたいだけどさ。

だけど、その憎しみを素直に表に出すことさえ奴隷には許されない。反抗的な目を向けるだけで暴力を振るわれて、そして大抵、そのまま殺される。

でもなあ、そんなことをしていて大丈夫なんだろうかって言えば、大丈夫じゃないんだろうね。

この処分場で働いてる奴隷達の姿を見てても分かる。今はこうしておとなしくしてるけど、いつか何かのきっかけがあれば抑えに抑えてきたものが一気に爆発することもあるだろうな。

それが起こる頃には私はもう生きてないだろうけど、大変な混乱に陥るんだろうって感じる。

そんなことはあって欲しくないけどさ。

自分達が『先祖の恨み』って言って奴隷達を憎み続けてるのと同じことがいつか返ってくるんじゃないかな。

誰かを虐げ続けるのってやがては破綻する。それは地球の歴史が証明してる。この世界もやっぱり同じ道を辿るのかなあ。

なんて、そんなこと、私が心配しても仕方ないのも分かってる。

ただ、私、この世界のこと、好きだからさ。もうすっかり、＜第二の故郷＞だと思ってるんだ。そこが酷いことになるのは忍びない。

そう思いつつ、今日もウンチを堆肥に変え、奴隷達を治療する。

それが私にできることだから。

でも、それで奴隷達が私に心を開いてくれたりするかってって言うと、そんなに甘くないんだよね。エマもそうだった。彼女一人であれだけ時間も手間もかかったんだから、こうやって何人もをいっぺんに相手してたって、彼女の時ほど丁寧にはできない。

学校の先生が生徒全員と心を通わせられるようになるなんてそれこそ至難の業だっていうのが分かるなあ。

正直、小学校、中学校、高校と先生を内心では馬鹿にしてきたリもしたけど、いやあ、大変なのは今なら分かるよ。

そんなうまくできやしないって。高望みしちゃダメなんだな。

『プロなんだからできて当然』

って、いやいや、教師は勉強を教えるプロではあっても、児童心理学とかその辺の専門家ってわけじゃないよね。多少勉強してる人もいるとしても、あくまでその道の専門家として勉強するわけじゃない。そういうのはカウンセラーとかの分野でしょう。

何でもかんでも教師に押し付けようとし過ぎだよ。そりゃ心も病むって。

正直、申し訳なかったと思う。

なんてことも思いつつ、今日も仕事を頑張る。

奴隷達も真面目に働いてくれる。

すると奇妙な一体感を感じつつも、でもそれを口にはしない。

『みんな仲間だ！』

とか、ドラマとかでありがちなことはしない。だってこれはきっと、黙っているからこその一体感だから。

口にしちゃうと、途端に嘘臭くなるんだろうな。