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仕事をしてると、こういうこともあるよ

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私の興した会社が次々乗っ取られたという事件には驚かされたけど、それを気にしてる暇はない。

私はただ、自分にできることをするだけだ。

それに、私の会社の目的を理解した上で引き継いでくれるのなら、いっそ任せたって構わないしさ。

その辺りを確認するためにも、手紙のやり取りは続けた。

なんてことをしてる間にも大使のところにも情報が入ってきてて、私が手紙でやり取りしてる内容とほぼ同じ状況が伝えられてきた。

これなら、手紙の内容を信じてもいいのかなと思える程度の情報は伝わってくる。

「よかったあ……」

仕事が休みの日、何度目かのリレの手紙で無事に頑張れてるのを見て、私は思わず呟いてた。

『私が支社長ということになってみんながちゃんと働いてくれるか心配でしたけど、本社からきた人がいるからか、ちゃんとやってくれてます』

とのことだった。

<本社から来た人>というのは、当然、トゥルカ商会本社から派遣された、たぶん、<監視役>だろう。会社的に言えば<監査役>なのかな?

それが睨みを利かしてくれてるってことだと解釈する。

悪くない。安心できる。きっとちゃんとした会社なんだろう。

もちろん、仕事のオーダーは厳しいだろうけど、それは仕事なら当たり前のことだ。それにリレは真面目で働き者だから、しっかりやってくれると思う。



次の休みの日の前日、私は、ベントが待つ主都の家の方へと帰った。

一人で。

実はアルカセリスが出る現場が、遠くなってしまったんだ。『自宅から通う』なんてことができないくらいに。

だから仕方なく、監督用の臨時の宿舎へと移ることになった。

「カリン様……私……」

それが決まった時、アルカセリスは私の前で唇を噛みしめながらポロポロと涙を流してみせた。泣きたくなんてなかったけど、それでも勝手に溢れてくる涙だっていうのは、私にも分かった。

「仕事をしてると、こういうこともあるよ。だけど、それだけセリスの仕事ぶりが認められたってことだと思う。

私としては、このチャンスは活かすべきだと思うんだ。これが成功したら、正式に役人として登用される可能性がずっと高まるんでしょう? だったら活かさない手はないよ。

仕事が休みの時は、帰ってきたらいいからさ」

宿舎は、ちゃんと女性用として、現場で補佐役として働いてる女性達のためのものだった。

そう言うと、まあセクシーな方向に受け取っちゃう人もいるかもだけど、実はそういう部分を受け持ってる<娼館>は別に出来上がってるんだ。だから彼女が入る予定の宿舎は、普通に女性職員用のものでもある。

こういう点からも、実は女性だからって虐げられてるわけでもないんだよ。

奴隷に対しては横暴でも、それとは別に倫理感も割とちゃんとしてるんだ。

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