何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
409 / 535

そうだよ、そういうところだよ!

しおりを挟む
『私、ベントのこと本気で好きなんだな……』

改めてそんなことを思ったら無性に彼の顔を見たくなってしまった。

だから、

「今日、向こうの家に顔を出しに行くから」

と、思い付きが口に出た。

「え~っ? 今日は一日ゆっくりするって……!」

アルカセリスは不満そうに声を上げるけど、

「ごめん! 急に向こうのことが気になってさ」

って両手を顔の前で合わせて頭を下げると、

「む~、しょうがないなあ……」

なんて唇を尖らせながらも承諾してくれた。

「この埋め合わせはまた今度するから」

と言いながら、出掛ける準備をする。

「ちょっと出掛けてくるから、家のことはお願い。夕方には帰ってくると思う」

エマにそう声を掛けて、家の周りを警備してくれてる兵士にも、

「ご苦労様です。今からちょっと出掛けます。夕方には帰ります。それと、これ、みんなで食べてくださいね」

声を掛けつつ残ったサイニが入った鍋を手渡した。

「いつもありがとうございます…!」

若い兵士が恐縮しながらも素直に受け取ってくれた。ちょくちょくこうして差し入れしてるから慣れてくれたんだ。

私がこうして警備の兵士達にも気を遣うのは、変に私に対して反発心を持たれるとそれがエマに向かう危険性もあるからっていうのもある。

前にも言った通り、ここでは奴隷は使い捨てだから死んでも大して気にしないっていう<常識>があって、主人に対する不満を奴隷に対する暴力で発散するっていうのも、それほど珍しくないんだ。

とんでもないことと感じるかもしれないけど、そういう常識はやっぱ社会によって変わる。それもまぎれもない現実だから。

なんてこともありつつも、<駅馬車>の駅に行って、主都行きの馬車に乗った。

<急行>に乗ったから、普通の馬車なら四時間かかるところを二時間半ほどで到着して、ベントの待つ<家>に帰った。

「ただいま」

こっちの家にも警護の兵士が立ってるから声を掛けると、

「おかえりなさいませ」

と笑顔で出迎えてくれた。ベントも普段から彼らに気を遣っていい関係を築いてるんだって分かる。いかにも彼らしいな。

しかも、にこやかなその様子で安心した。だって、ベントがもし女を連れ込んでたりしたら、たぶん、もっと気まずそうにすると思うから。それがないということは、大丈夫なんだなって。

やっぱりちょっと不満そうなアルカセリスを伴って、

「ただいまぁ」

って、まさに自分の家に帰ってきた気軽さで声を掛けたら、ベントが、

「おかえりなさい。何となくそろそろ顔を出すんじゃないかなって思って、準備してました」

だって。

その彼の手には、魚の煮つけが。

兵士に挨拶した私の声が聞こえてて、用意してくれたんだ。

そうだよ、そういうところだよ! ホントに自然にこういう気遣いができるんだ、この男は……!

それが胸にぐっときて、私は、自分の目が潤んでしまったのを感じたのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

処理中です...