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そうだよ、そういうところだよ!
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『私、ベントのこと本気で好きなんだな……』
改めてそんなことを思ったら無性に彼の顔を見たくなってしまった。
だから、
「今日、向こうの家に顔を出しに行くから」
と、思い付きが口に出た。
「え~っ? 今日は一日ゆっくりするって……!」
アルカセリスは不満そうに声を上げるけど、
「ごめん! 急に向こうのことが気になってさ」
って両手を顔の前で合わせて頭を下げると、
「む~、しょうがないなあ……」
なんて唇を尖らせながらも承諾してくれた。
「この埋め合わせはまた今度するから」
と言いながら、出掛ける準備をする。
「ちょっと出掛けてくるから、家のことはお願い。夕方には帰ってくると思う」
エマにそう声を掛けて、家の周りを警備してくれてる兵士にも、
「ご苦労様です。今からちょっと出掛けます。夕方には帰ります。それと、これ、みんなで食べてくださいね」
声を掛けつつ残ったサイニが入った鍋を手渡した。
「いつもありがとうございます…!」
若い兵士が恐縮しながらも素直に受け取ってくれた。ちょくちょくこうして差し入れしてるから慣れてくれたんだ。
私がこうして警備の兵士達にも気を遣うのは、変に私に対して反発心を持たれるとそれがエマに向かう危険性もあるからっていうのもある。
前にも言った通り、ここでは奴隷は使い捨てだから死んでも大して気にしないっていう<常識>があって、主人に対する不満を奴隷に対する暴力で発散するっていうのも、それほど珍しくないんだ。
とんでもないことと感じるかもしれないけど、そういう常識はやっぱ社会によって変わる。それもまぎれもない現実だから。
なんてこともありつつも、<駅馬車>の駅に行って、主都行きの馬車に乗った。
<急行>に乗ったから、普通の馬車なら四時間かかるところを二時間半ほどで到着して、ベントの待つ<家>に帰った。
「ただいま」
こっちの家にも警護の兵士が立ってるから声を掛けると、
「おかえりなさいませ」
と笑顔で出迎えてくれた。ベントも普段から彼らに気を遣っていい関係を築いてるんだって分かる。いかにも彼らしいな。
しかも、にこやかなその様子で安心した。だって、ベントがもし女を連れ込んでたりしたら、たぶん、もっと気まずそうにすると思うから。それがないということは、大丈夫なんだなって。
やっぱりちょっと不満そうなアルカセリスを伴って、
「ただいまぁ」
って、まさに自分の家に帰ってきた気軽さで声を掛けたら、ベントが、
「おかえりなさい。何となくそろそろ顔を出すんじゃないかなって思って、準備してました」
だって。
その彼の手には、魚の煮つけが。
兵士に挨拶した私の声が聞こえてて、用意してくれたんだ。
そうだよ、そういうところだよ! ホントに自然にこういう気遣いができるんだ、この男は……!
それが胸にぐっときて、私は、自分の目が潤んでしまったのを感じたのだった。
改めてそんなことを思ったら無性に彼の顔を見たくなってしまった。
だから、
「今日、向こうの家に顔を出しに行くから」
と、思い付きが口に出た。
「え~っ? 今日は一日ゆっくりするって……!」
アルカセリスは不満そうに声を上げるけど、
「ごめん! 急に向こうのことが気になってさ」
って両手を顔の前で合わせて頭を下げると、
「む~、しょうがないなあ……」
なんて唇を尖らせながらも承諾してくれた。
「この埋め合わせはまた今度するから」
と言いながら、出掛ける準備をする。
「ちょっと出掛けてくるから、家のことはお願い。夕方には帰ってくると思う」
エマにそう声を掛けて、家の周りを警備してくれてる兵士にも、
「ご苦労様です。今からちょっと出掛けます。夕方には帰ります。それと、これ、みんなで食べてくださいね」
声を掛けつつ残ったサイニが入った鍋を手渡した。
「いつもありがとうございます…!」
若い兵士が恐縮しながらも素直に受け取ってくれた。ちょくちょくこうして差し入れしてるから慣れてくれたんだ。
私がこうして警備の兵士達にも気を遣うのは、変に私に対して反発心を持たれるとそれがエマに向かう危険性もあるからっていうのもある。
前にも言った通り、ここでは奴隷は使い捨てだから死んでも大して気にしないっていう<常識>があって、主人に対する不満を奴隷に対する暴力で発散するっていうのも、それほど珍しくないんだ。
とんでもないことと感じるかもしれないけど、そういう常識はやっぱ社会によって変わる。それもまぎれもない現実だから。
なんてこともありつつも、<駅馬車>の駅に行って、主都行きの馬車に乗った。
<急行>に乗ったから、普通の馬車なら四時間かかるところを二時間半ほどで到着して、ベントの待つ<家>に帰った。
「ただいま」
こっちの家にも警護の兵士が立ってるから声を掛けると、
「おかえりなさいませ」
と笑顔で出迎えてくれた。ベントも普段から彼らに気を遣っていい関係を築いてるんだって分かる。いかにも彼らしいな。
しかも、にこやかなその様子で安心した。だって、ベントがもし女を連れ込んでたりしたら、たぶん、もっと気まずそうにすると思うから。それがないということは、大丈夫なんだなって。
やっぱりちょっと不満そうなアルカセリスを伴って、
「ただいまぁ」
って、まさに自分の家に帰ってきた気軽さで声を掛けたら、ベントが、
「おかえりなさい。何となくそろそろ顔を出すんじゃないかなって思って、準備してました」
だって。
その彼の手には、魚の煮つけが。
兵士に挨拶した私の声が聞こえてて、用意してくれたんだ。
そうだよ、そういうところだよ! ホントに自然にこういう気遣いができるんだ、この男は……!
それが胸にぐっときて、私は、自分の目が潤んでしまったのを感じたのだった。
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