何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十

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皆さんの努力の賜物ですよ

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「ありがとうございます…! ありがとうございます……!」

甘イモの畑で、私に陳情しに来た人達をはじめとした村の人達が、涙を流しながら何度も頭を下げてくれてた。

新しい栽培方法で作付けした甘イモが実を結び始めたからだった。

収穫にはまだ早いけど、それでも、今までこの時期にそれが見られたことがなかったそうだ。今後、何か災害でもない限り、これまでとは比較にならないほどの収穫が得られるのは間違いないのを実感して、感激してるんだ。

しかもモグラレンコンの方はこれまでにも何度か収穫できて、村の貴重な食料になってくれた。モグラレンコンが侵出してきてすっかり<モグラレンコン畑>になってしまった<元・甘イモ畑>でも、皮肉なくらい立派なのが収穫されてた。さらに味も良くて、この村で作られるサイニの主な具の地位を獲得してしまったんだよね。

「腹いっぱい食べられるから甘イモの畑でも頑張れます……!」

とも言ってくれてた。

「皆さんの努力の賜物ですよ。私はただ、きっかけを用意しただけに過ぎません」

私はそう言って手を振ったけど、収まる様子がない。

でも、その場に、あの男の子の姿はなかった。まだ実際に収穫できたわけじゃないから彼にとっては実感がないんだろう。

フィクションなんかだとここで彼が謝りに来てくれて和解って流れだったりするんだろうな。だけど現実にはそう上手くはいかない。人間ってそんな単純じゃないからね。

「本当にすいません。あの子も本心じゃもう分かってるはずなんですけど……」

代表格の人が申し訳なさそうにそう言ってくれたものの、私は、

「大丈夫ですよ。気にしてません」

と返させてもらった。

それに男の子も、モグラレンコンがたっぷり入ったサイニを美味しそうに食べてくれてたそうだ。それが何よりの答えだよ。

なんにせよ、後は油断せずに手入れを続けて収穫を待つだけだな。

だからここでの私の仕事は八割方終わったと言えるかもね。

そういうわけで、次の村へと向かう為に馬車に乗り込んだ時、遠くの方であの男の子の姿が見えた。私が気付いたことが分かったのか、男の子は大きく頭を下げてくれる。

『……よくある結末だけど、なるほど悪くないな……』

なんてことを思いつつ、私は胸があたたかくなるのを感じてた。

私のことをあれだけ罵ってしまったから、顔向けできないっていうのもあったのかもね。だけど感謝はしてくれてるんだろうな。

実を言うとこの数年後、その男の子もセリス商会の社員になって村の発展に尽力することになるんだけど、それはまた別の話だから、私の方からは詳しくは触れないでおこう。

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