何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって？ そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが！！

お前の言う通りにしたのに……っ！！

「カリン様…これは……？」

もうすっかり春めいて蝶が飛び始めた頃、いつものように畑に顔を出した私に、代表格の人が青ざめた様子で声を掛けてきた。私の視線の先の光景を見ればその反応も無理はないけどね。

「モグラレンコンか……」

そう。本来、甘イモの畑だったところに、モグラレンコンの葉が生い茂ってたんだ。順調に育ってたから、他の畑の方を手伝う為に少し目を離してた数日の間に。

しかも、甘イモの方は、モグラレンコンに養分を奪われて、すっかり弱ってしまっていた。

隣の畑に植えたモグラレンコンの地下茎が、甘イモの畑にまで侵食してきて、葉を茂らせたんだ。

元々たっぷりと水を含んでいた畑の地下の一部分が、モグラレンコンにとってちょうどいい状態で、そこに運悪く（モグラレンコンにとっては運良く）地下茎が入り込み、大きく成長することができたってことだろうな。

既に甘イモの畑の三分の一以上がモグラレンコンに占領されてた。

そこで私は、モグラレンコンの内部にいる微生物に干渉し、今の状態を詳細に確かめる。

すると、それ以上先には行けずに、ここまでの範囲で地下茎を張り巡らせるようにしたらしいことが分かった。

こうやって魔法を使って詳細に確認してればここまでになる前に対処できただろう。だけど、私と同じことをできる人が他にいない状態でそれをしても、私がいなくなったら結局はどうすることもできないんだから、意味がない。むしろ、

『こういうこともある』

というのを、知ってもらった方がいいんだ。

代表格の人はさすがに長く農を営んできたから察してくれてても、彼のお孫さんだという、畑仕事を手伝ってくれてた男の子は、明らかに憤りを秘めた目で私を睨み付けていた。

しかも、我慢しきれなかったんだろうな。

「なんだよこれは！　なんでこんなことになってんだよ！　お前の言う通りにしたのに……っ！！」

だって。

「こら！　やめなさいっ！！」

代表格の人が男の子を諫めるけど、私はむしろその子の憤りは当然のことだと思う。男の子は私の指示に従って、黙々と働いてくれてた。

『これで今までよりは楽になるんだ』

って期待に満ちた目でさ。

それが無駄になったってことだもんな。しかも男の子は、家族のことをいつも気遣ってた。だからきっと、自分の働きが無駄になったこと以上に、これでやっと両親や祖父母の苦労が報われると思ったのにってことだったんだと思う。

だから私は、

「私の見通しが甘かったんです。ごめんなさい」

と、深々と頭を下げさせてもらったんだ。

何もかもがこちらの思い通りになる訳じゃない。これが自然を相手の営みということだ。