上 下
387 / 535

子供まで働かせなくても十分な収穫が得られるようになれば

しおりを挟む
ティンクラウラもそうだったけど、この世界の子供達はすごく働き者だ。

自分の役目をよく理解して、しっかりと親を手伝ってくれる。

でも、そんな<美談>の陰で、それを奨励することで身分の固定化を図っているという現実も確かにあるんだよね。

平民の子の多くは勉強の機会も与えられず、世界の仕組みを知ることもなく、身分制度の欺瞞を知ることもなく、ただ何も考えずに一部の階級を支えるために働いて死んでいくんだ。

とは言え、限られたリソースを分け合わなきゃいけない今のこの世界では、身分制度にもそれなりの合理性があるのも事実ではある。

それを覆す為にも、十分なリソースを確保する必要がある。私がしてることも、結局はそれなんだ。

作業の機械化による省力化もその方策の一つだけど、私はそっち方面には明るくない。灌漑施設の充実を提唱することによって事実上の省力化を図ったりもするし、水車を使った給水とかくらいは思い付いても、それ、もうここでは導入されてるんだよね。だから、

『すごい発明だろ! どやぁ!』

ってできないんだよ。

だけど、とにかく子供まで働かせなくても十分な収穫が得られるようになれば、その分、勉強に向けることもできるようになる。地球だってそうやってきたんだ。

そして知識を得た子供達がさらなる知恵を生み出していく。技術を生み出していく。それが常に幸福だけをもたらすとは限らないのも事実だとしても、<変化>そのものが生き物の本質だ。環境に合わせて自らを変化させていくっていうね。

そんなこんなで、甘イモの方は何とか順調だ。と言っても、サイサスリスト氏が期待してるレベルには程遠いだろうけどさ。彼としてはそれこそ、適した農地に匹敵する収穫を期待してるだろう。そこには遠く届かない。

けれど、ここの人達の不満を和らげることができれば、それ自体が<利>になる。不満が爆発するのを遅らせられれば、その間にさらに収穫量を増やす為の手段を講じることもできる。

加えて、苗の定着率が六割程度しかなかったのも、普通に耕す以上に土を攪拌することになったせいで、ある程度は現在の環境に適応してた甘イモにとってそれがまた大きく変わったからだろう。

こういうこともある。

私が魔法で微生物に働きかけて環境を整えるという方法もあるけど、それだと、今後も全ての畑に私が出向いて魔法を掛けなきゃいけなくなる。私は一人しかいないのに無茶な話だ。他の魔法使いに伝授するとしても、果たしてどの程度使えるようになるかは分からないし、そもそも魔法使いの絶対数も足りない。

土が馴染むまでにしばらく時間がかかるという事実を承知してもらう方がいいんだ。

農は、一朝一夕では成果は得られない。現場の人達はそれを理解してても、上はそうじゃない。簡単に結果が得られると思われると、後が大変なんだよね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

公爵令息はもふもふ愛好家

さてぃー
ファンタジー
公爵家三男ノアは生まれた時から前世の記憶を持っていた 前世では7人兄弟の1番上だったので兄弟の世話をしなければならず、癒しが常に足りなかった。 仕事も忙しく、眠れない日々が続いていた。 ある日、目が覚めるとそこは違う世界で、しかも、、、、、、、 転生した世界で優しい家族や癒しの動物達に囲まれ成長するお話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...