何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって？ そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが！！

何となく、ただ済し崩し的に慣れていってもらってる状態だな

実は最近、エマについても大きな変化があった。

『おかえりなさいませ』

帰ってきた私に、はっきりとそう言えたことだ。

この国での奴隷は、それこそただの＜物＞なので、主人に声を掛けることすら憚られる。だから基本的に挨拶すらしない。

ファルトバウゼン王国でも姿を見せることさえ憚られる状態だったけど、それ以上なんだ。

身分としては、大まかに、王族＞貴族＞市民＞卑民＞奴隷という感じかな。

＜卑民＞というのが、ファルトバウゼン王国における奴隷の立場に近い人達で、一般的な使用人の下につき、奴隷を管理監督する役目らしい。

と言うか、奴隷と直接関わりたくないからわざわざつくった身分、って感じかな。元々敵国に属してたりして＜卑しい民＞とされてる人達がそこに充てられる。

そうまでして奴隷を使う意味が、私には分からない。分からないけど、現にそうなってる以上は、下手に口出しはできない。したところでどうにもならないしさ。

それでも、私のところのエマは、取り敢えずファルトバウゼン王国での奴隷並くらいの扱いには近付いてきてるかな。

向こうでは、王族や貴族の前に姿を見せるのは嫌がられてたけど、市民はそこまでじゃなかったし。

そして私はただの市民だ。貴族じゃない。

アルカセリスも、エマが私達のお風呂の用意をするところまでは許してくれるようになった。

本当に、何となく、ただ済し崩し的に慣れていってもらってる状態だな。だけど結局、そういう感じでしか進まないんだと思う。上から押し付ける感じで、

『今日から自分と対等に扱え！』

とか言ったって『はいそうですか』と受け入れられないのが人間だしさ。

それが分かってるから、私は焦らない。私の感覚にすぐさま合わせられないアルカセリスに苛立ったりもしない。

自分の思い通りにならないことに苛立って、何が得られる？

いくらイライラしたって相手は自分の思い通りになんてなってくれないんだよ？

自分が誰かの思い通りにはなれないのと同じで。

だったらイライラすること自体が損じゃん？　何も得るものはないよ。

アルカセリスと一緒にお風呂に入って、彼女の体もマッサージしてあげる。

だからって別に、セクシーな展開とかないからね？　ホントにホントに単純なマッサージだ。

申し訳ないけどさ。

筋肉の疲労をほぐし、血流を改善するだけのね。明日は仕事は休みだけど、だからこそリフレッシュして休み明けの仕事を頑張ってほしい。

私も一応、建前としては仕事は休みだ。担当役人も明日はこない。

だけどだからこそ、やれることはやっておきたい。

あれこれ口出しされないうちにね。