上 下
372 / 535

それが分かってて自分ばかりが幸せになろうとするのって

しおりを挟む
正直、私なんかよりリレの方がよっぽど、<物語の主人公>に相応しい濃密な人生を送ってると思う。

でも、彼女の人生には死ぬまで『奴隷だった』っていう事実がつきまとうことになるのは間違いないだろうな。

だけど彼女なら、それに負けずに強く生きてくれるんじゃないかな。

それに、もし何か困ったことがあって、私が助けになれるのなら、力になりたいと思ってる。今、彼女の周りにはそういう人達が集まってるそうだ。これは彼女の<人望>だ。

彼女が力を貸すに値する人物だと思えばこそ力になってくれる人が現れるんだ。

その中には、彼女の下から私を連れ去って迷惑を掛けたブルクバンクレンさんもいるらしい。<せめてもの罪滅ぼし>ってわけでもないけど、リレのために力を尽くしてくれてるって。

ブルクバンクレンさん自身が、奴隷に堕とされた人達の出身だからっていうのもあるかもしれない。

どうあれ、そういう諸々が彼女の力になってるのも事実だ。

それでも、辛いことはつきまとう。

つきまとうんだけど、やっぱり人生ってそういうものなんだろうな。

逆説的に言うと、真面目な彼女が辛い目に遭ってるからこそ『力になりたい』と思ってくれる人が現れるというのもあるのかも。

皮肉な話だけどさ。

そもそも、何の苦労もない、それこそ順風満帆そのものの人生だったら、別に力を貸す必要もないわけで。

私も、以前は決して望ましい人生じゃなかった。

<外れガチャ>を引いたような人生だったのは事実だ。だけどそのおかげでたくさんのいい出逢いに恵まれた。ベントとも出逢えて結ばれることができた。

それで言ったら、プラマイゼロどころかお釣りがくるくらい恵まれた人生じゃないかな。

とにかく、私は今、間違いなく幸せだ。いろいろ細かい部分では大変なことはあっても、それは、

『私一人が完璧に幸せになって周りがその分だけ不幸になる』

っていうのじゃないって意味でもあるから、むしろ好ましいんだ。

みんなどこかで苦労もしながら、大変な思いもしながら、それぞれが小さくても確かな幸せを掴んでいく。

それでいいと思うんだ。

<幸せの独り占め>は、不幸をばらまくのと同じ。

たとえ周りは不幸にしてでも自分だけは幸せになりたいって思ってしまうのは人間の<業>だとしても、そういう欲求にただただ盲目的に従ってたら結局は他人から恨まれて疎まれて妬まれてせっかくの幸せを壊されたりもするんだよ。

それが分かってて自分ばかりが幸せになろうとするのって、愚かしいとは思わない?

少なくとも私は愚かしいと思う。だから敢えて他人に譲歩だってするんだよ。

しおりを挟む

処理中です...