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農地転換の件はなかったことにしてもらえるのだな?

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ベントは間違いなく優秀な人材だよ。

仕事の手順は正しく理解してくれてるし、一度説明すればだいたいは分かってくれる。その上で、それなりに応用も効く。

でも、だからって万能かと言うと、必ずしもそうじゃない。向き不向きはどうしても出てくる。

それまでのアニメの枠を深夜とかに振り替えて、バラエティ番組とか情報番組とかを入れたことでテレビ局に利益がもたらされれば、それはテレビ局にとっては間違いないく正しい判断だし、それをできた人は間違いなく<有能>だろう。

テレビ局にとっては。

だけど、その時間帯にアニメを見たかった人達にとっては、これまた間違いなく<無能>だろうな。

結局、そういうのって、何を基準に考えるかの違いなんだよ。

戦争で多くの敵を殺した人は<英雄>かもしれないけど、平時に多くの人を殺せばただの<大量殺人犯>だ。

だから何が<正しい>か<間違ってる>かっていうのも、状況によって変わってしまう。

今回、ベントがサイサスリスト氏を説得できなかったのも、別に彼の能力に問題があったからじゃない。彼の交渉の仕方がたまたま適さなかっただけだ。

むしろ、そこで無理をして自分だけで何とかしようとして話を拗れさせるより、早々に私にバトンタッチする判断ができるだけ、彼は優秀だと思うよ。

ここで意地になって厄介事を作る人っているんだし。

自分にできること、できないことを冷静に判断できるっていうのも大事な才覚じゃないかな。

というわけで、私は、サイサスリスト氏に、

「あなたのおっしゃることは、本当にもっともです。私はあなたのおっしゃることに全面的に共感します。一緒にこの地のイモとサトウキビを守りましょう!」

って、身を乗り出しながら言わせてもらった。

「あ……ああ、当然だ…!」

サイサスリスト氏は、一瞬、呆気にとられたような表情になったけど、すぐにまた気難しそうで偉そうな態度に戻って、ふんぞり返って言った。

さらに、

「ならば、農地転換の件はなかったことにしてもらえるのだな?」

と訊いてくる。

でもそれに対しては私は、

「ああ、その件については無理ですね」

と満面の笑顔で突っぱねる。

「な……!? それではこの男の言ってることと同じではないか!!」

さすがにカチンときたのか、ソファーの背もたれに預けていた体を起こし、ベントを指差しながらサイサスリスト氏が食って掛かるような仕草を見せた。

そんな彼に、私は応えさせてもらったんだ。

「だって、それぞれイモやサトウキビに適した農地をあてがわれた農民達はその方がいいでしょうけど、適してない農地を割り当てられてこれまで十分な収穫を得られなかった農民達はそれでは納得しませんよ」

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