何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十

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とにかく慣れた作物以外は作りたくないっていう感じにしか

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「どうぞ」

しばらく経ってあの秘書らしき女性が戻ってくると、私達の前に小皿に乗せられたものが出された。

黄金色で、とろりとした印象の光沢を放つそれは、

『大学イモ……?』

そう。見た目には完全に<大学イモ>だった。

「この地で採れる甘イモとサトウキビで作った甘味かんみだ。味わってくれたまえ」

ソファーにふんぞり返ったまま、サイサスリスト氏はやはり偉そうにそう言ってみせた。

だからそれは敢えて気にせずに、

「いただきます」

と告げてそれを口にする。

『完全に大学イモだ……』

そう。ねっとりと口の中で蕩けて強い甘味あまみと香ばしさが広がるそれは、大学イモ以外の何物でもなかった。

しかも、砂糖がたっぷりと使われてるのも確かだろうけど、イモ自体の甘味あまみが強い。

これは、こっちの世界ではかなりの贅沢品じゃないかな。

私が驚いたような表情になってるのを見て、サイサスリスト氏はニヤリと含み笑いをした。

「これが、この地の<武器>だ。河寄りの地では甘イモが、山寄りの地ではサトウキビが、良く採れる。しかも他の地では望むべくもない質でだ。だからこれほどの甘味かんみを作ることができるのだ。

故にこの地は、現在では軍事的な意味での地勢上は何の価値もない僻地でしかないが、かねてより特別な扱いを受け、王ですら勝手なことはできない地であったのだ。

にも拘らず現王は、目先の利だけを見て、農地の転換を押し付けてくる。イモとサトウキビについてはそのままでよいが、さらに諸国に売れるものをと言ってくるのだ。

だが、作物というものは、そんな簡単なものではない。不慣れな作物の育成に手間を取られれば、肝心のイモやサトウキビの世話が疎かになる。

それでなくとも厳しい税を課せられ、農民達に苦労を強いてきたのだ。この上、イモとサトウキビの収穫は落とさずに新しい作物もなどとは、あまりにも農を知らぬ愚昧な考えではないのか?」

憮然とした表情のまま、サイサスリスト氏は一気にまくし立てた。

ひどく頑迷さも感じられる態度ではあるけど、言ってる内容は、明らかに私から見ても筋が通っているように思えた。と言うか、その通りだと全面的に共感するしかない。

一応、ここに来る前にもイモとサトウキビが特産品だってことは聞いてたけど、まさかこれほどとは……

なるほど、ベントとしては農地転換を進めなくちゃいけないという立場からそれを前提とした話をしてたんだけど、サイサスリスト氏としてはイモとサトウキビを守りたいから突っぱねてきたってことか。

ベントから聞いた話じゃ、その辺りのニュアンスが伝わってこなかった。とにかく慣れた作物以外は作りたくないっていう感じにしか、ベントには伝わってなかったんだろうな。

この辺りは、すごく頭が良くて優秀で、その上この仕事を長く続けてる彼でも、本質はやっぱり貴族だから、<農作物に対する拘り>については今もまだ感覚的にピンと来てないんだよね。

彼としてはあくまで<手続き論>の問題として捉えていたんだと思う。

だから話が噛み合わなかったんだ。

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