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いい恰好をしようとして、でも結局ヘタレて事態を悪化させるようなのは

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私がやったのを真似してもらって、エマにもコーヒーを実際に淹れてもらった。

すると、私がやった通りにしてみせる。

「ん、美味しい。じゃあこれからはこれで頼む」

って彼女が淹れたコーヒーを一口含んだ私が言うと、エマはホッとしたような気配になった。

笑顔になったりとかってわけじゃない。主人の前で笑ったりしたら何を言われるか分からないから表情が固まってしまってるんだろう。

だけどそれでも、ほんの僅かな変化であっても、彼女が確かに安堵してるのが分かるんだ。

私もそれにホッとする。改めて彼女がすごくいい子だと感じる。

ここで素直に安堵してもらえるのは本当に助かる。ここで変に裏を読もうとしたりされるのはいろいろ辛い。

そういうタイプは苦手だ。

私は万能じゃない。どうしても『合う・合わない』はある。そういうのを無視して、

『私が救ってあげる!』

とか考えて善意を押し売りしてくる人間ではいたくない。

昔いたんだ。私が両親からキツイ折檻を受けた時に、

「私が守ってあげるから」

とか言って両親にあれこれ口出ししたんだけど、変に顔が広くていろんなところにパイプも持ってた両親はそれに対抗して、弁護士やら、さらには左手の小指と薬指がない<いかにもな人>も連れてきてその人の家に押しかけたら途端に腰が引けちゃって、それから先は見て見ぬふり。

おかげで私は、両親に、

「他人を使って躾を逃れようとか、お前は本当に性根が腐ってるな!!」

って感じで余計に折檻されるようになった。

いや、私は何も言ってないし! 向こうが勝手に言い出しただけだし!!

とは思ったけど、そんなのあの両親が気遣ってくれるはずもなく、私は結局、余計に人間不信になっただけだったよ。

あの両親相手に真っ向渡り合える力もないクセにいい恰好をしようとして、でも結局はヘタレて事態を悪化させるようなのは、<善人>じゃなくてただの<世間知らず>だよ。

いや、善人なのはそうだとしても、身の程をわきまえてないのは、本当に迷惑だ。

しかもそういう人は、自分が正しいことをしてると思ってるから、かえって状況を悪くしたとしてもそれを自分の所為だと本気では思ってない。さらには、こんな風に言うと、その人と同じタイプの<善人>は、

『せっかく助けようとしてくれてたのに、なんて恩知らずだ!』

とか言って今度は私を責めるんだ。もう、何がしたいのかさっぱり分からないよ。どうして両親の方をどうにかしようと思わないの? 単に責めやすい方を責めてるだけじゃん!

なんてこともあったから、だから自分もそうならないように、良い人ぶるのはしないように心掛けてるんだよね。

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