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私どもにもスクスミ様のお力を貸していただきたく

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家に戻ると、門の前に何人かの人が集まっていた。なるべく綺麗な恰好をしようとはしてるんだけど、溢れ出る農民の気配は隠しきれていない人達だった。

「うちに御用ですか?」

ベントが尋ねるとその人達は、

「あ…!」

と少し腰が引けたようになる。彼から溢れる<貴族オーラ>に気圧されたんだろうな。

だから今度は私が、

「もしかして農地のことで何か相談が?」

と尋ねる。すると、

「あなたがスクスミ様ですか?」

その人達の代表らしい、少し気の弱そうな初老の男性がおずおずと前に出てきた。

「はい。私がカリン・スクスミです。私に分かることならお聞きします」

なるべく穏やかな感じになるように応えると、彼らの間にホッとした空気が広がった。

「実は……私どもにもスクスミ様のお力を貸していただきたく、こうしてお願いに参った次第です」

縋るようにそう言った男性の目は、怯えと決意と惑いがごちゃ混ぜになったような色が見えた気がした。

ティンクラウラの両親の態度でも分かる通り、彼らからすれば私は本来、貴族や王族にも匹敵する、雲の上の存在だ。そんな私に対して直接陳情を持ってくるというのは、下手をすると不敬罪とかで死罪にすらなりえる行いだろう。

彼らは命懸けでここに来たのだ。

だけどもちろん、私は彼らを責めたりしない。ただ、窓口として役人を通してほしかったなと思うだけだ。

でも、彼らは、

「私どもの村にもスクスミ様の御高名は轟いております。しかし、私どもの村を管轄する役人がそれを快く思っていないらしく、スクスミ様のお力をお借りすることを拒んでいるのです」

と、切々と語った。それを聞いて私もピンときた。

『ああ…そんな話もあったな』

この辺りはさすがに主都だけあって監視の目も行き届いていて、上からのお達しに異を唱える行為も控えられてはいるけど、地方ともなるとやっぱりそれが緩くなってしまってて、割とその辺りを管轄する役人達が好き勝手なことをしてる例もあるらしい。だから、他所から来た胡散臭い私のことを毛嫌いして、反発してるんだろうな。

これは、十分、想定されていた事態だった。ファルトバウゼン王国でも、多少はそういうことがあった。それでも、王様自身が国民から尊敬されていたこともあってか、あまり極端な例はなかったんだ。

だけどここでは、貴族や王族は平民とは一切関わろうとしない。それもあって実感に乏しく、素直に従おうという気にならないっていう事例が結構あるとは聞いてたんだよね。

たぶん、これものその一つなんだろう。

だから私は、

「分かりました。それでは、彼に、その役人を説得してもらいます」

と言って、ベントを見たのだった。


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